KAMEYAMAⅣ~vol.07 恋愛感情に振り回されて

 

私たちは、「恋愛感情」というものに、ずっと悩まされ続けなければいけないのだろうか。そんなふうに考え込むようなできごとを、とある女性から聞かされた。

彼女は40代。見合いで結婚した、会社経営者の夫とは15年にわたるセックスレス。優秀なひとり息子は、すでに海外の大学へと進んでいる。

「私のやるべきことは、夫が夜中に帰ってきても待っていること。夜食を作ること。隣に住む夫の親のめんどうをみること。それだけなんです。家政婦みたいなもの」

夫はときどき、気まぐれのように自分が出席するパーティに妻を同伴する。それもだいたい前日に言い出すから、彼女は当日、あわてて美容院へ行く。常日頃からエステは欠かせないらしい。夫はきれにしていない妻は、妻の価値がないと思っているらしい。だが、そこに愛はない。

裕福な暮らしは羨ましい限り。エルメスだプラダだと、ブランドものを買っても、夫は文句は言わない。だが、夜中に帰ってきたときに夫の食べたいものを出せないと烈火の如く怒る。ときどき、昼にふらりと戻ってくることもあるが、そんなとき妻が家にいないと携帯にひっきりなしに電話が入る。妻に、時間的な自由、行動の自由はないのだ。

彼女は、周りから見れば、なに不自由なく暮らしている奥様。だが、よくよく話を聞いてみれば、「私は飼われているようなもの」だと嘆く。

そんな彼女が、中学時代の先輩とばったり再会し、恋に落ちた。一度だけデートして関係をもったが、思い切って、「もう会わない」と彼に告げた。今の生活を壊すことはできないと思ったから。それでも、心の中では彼への気持ちを断つことはできないのだ。

「恋愛なんかしたくなかった。自分の感情に振り回されて、とてもつらい」

彼女はそう言って涙ぐんだ。自分を律し、たとえ窮屈でも、一生、今の「社長夫人」の立場を大事にしていこうと考えていた彼女の割り切った心に、曖昧模糊とした恋愛感情が生まれてしまった。

これはとてもつらいだろうと思う。恋などしないと決めていたのに、心はそううまくは割り切ってくれないのだ。

人を好きだと思う気持ちは、いくつになっても生まれてくる。人は一生、恋愛感情という甘くて素敵で、しかしときにはすべてを破壊するほど醜くもなる気持ちから、抜け出すことはできないのかもしれない。

恋愛感情が押し殺せなくなったとき、自分の立場と状況を鑑みて、どう行動するか。そこに、そのひとの人生観が出るのではないだろうか。するりと恋愛感情のままに行動する人もいれば、自身の恋を徹底的に拒絶する人もいるだろう。どういう行動をとるにせよ、自分が決めたら、貫き通すしかない。女の人生、案外大変なものだなあと改めて感じている。

 

 


著者:亀山早苗
明治大学文学部卒業後、フリーランスライターとして活動。夫婦間、恋人間のパートナーシップに関する著作多数。女性の立場から、男女間のこまやかなコミュニケーションのひとつとしてセックスを重要視する。 亀山早苗公式サイトはこちら・カフェ・ファタル

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