KAMEYAMAⅣ~vol.14 業の深い女、その2。

 

婚外恋愛に落ち、離婚しないまま女性のほうが家を出、一緒に住み始めて10年というカップルがいる。わたしがその片割れのシホさん(仮名)と知り合ったのは数年前。夫が離婚に応じてくれず、恋人とはいつまでたっても同棲状態だと嘆いていた。彼女は40代後半、彼は30代前半である。

「私は最低の女よ」

つい先日、彼女はそう言った。いったいどうしたのかと思ったらーー。

彼女は昨年後半、不運続きだった。更年期なのか体調が優れなかった。そこへもってきて自分が経営していた会社でトラブルが続出。心身共に弱っていたとき、一緒に住む恋人は、心から彼女を理解しようとはしてくれなかった。

そして年末、彼に新しい女性ができたのを知った。問い詰めると、彼はあっさり白状した。あげく、聞きもしないのに彼女のことをしゃべり始めた。シホさんは、彼女のことをのろける彼を見て、猛烈な嫉妬にかられる。

「10年も一緒に住んでいて、彼とももう夫婦同然だったから、ちょっとマンネリだったのよね。浮気の話を聞いてカーッとなって、思わず彼に迫ったの。もうセックスレスみたいなものだったのに。私の剣幕に、彼もその気になって。ものすごく燃えたのよ」

だからといって、彼は新しい彼女と別れる気配はない。もうそろそろ、年下の彼を手放す時期なのかもしれないと、シホさんも心の隅では感じている。だが、彼をこのまま彼女の元へやるものかという気持ちからなのか、毎晩、彼を肉体的に攻め立てているそうだ。新しい彼女とは遠距離なので、彼は毎日彼女に会うのは不可能。LINEで彼女とやりとりする彼を、シホさんは襲う。

「私たち、もともと肉体的な相性がいいのよ。私は前よりずっと感じてるし、彼もそれはわかってる。このところ、お互いに全力を尽くすような、ものすごいセックスが続いてるの。新しい彼女から,今だけは取り返してるという実感がある。だけど冷静になって考えると、私、ひどいことしてるなと思うのよ」

彼女は妖艶な表情を見せた。男を追いかけているときの女は、どうしてこういう凄絶な美しさを見せるのだろう。

嫉妬にかられ、嫉妬にまみれながらのセックスが燃えるという話は、他の女性からも聞いたことがあるし、私自身も経験がある。そこに人間ならではの歪んだ、あるいはねじれた心理がある。動物は嫉妬にかられながらセックスはしないはずだ。それを非道とはいえないだろう。

「この先、どうなるかわからない。近いうち、彼とは離れることになるんじゃないかな。でも、そうなるまでにやるだけやりたいのよ、彼とのセックスを」

シホさんは、さらに妖しく目を輝かせながらそう言った。

 

 

 

 


著者:亀山早苗
明治大学文学部卒業後、フリーランスライターとして活動。夫婦間、恋人間のパートナーシップに関する著作多数。女性の立場から、男女間のこまやかなコミュニケーションのひとつとしてセックスを重要視する。 亀山早苗公式サイトはこちら・カフェ・ファタル

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