KAMEYAMAⅣ~vol.11 セックスがなくても「いい関係」?

 

アラフォーの女友だちが、ある日突然、仲間の前で、「来月結婚する」と言い出した。聞けば、長年、顔見知り程度だった10歳年上の男性と急接近。何度かデートして結婚を決めたのだという。

「まだエッチしてないんだけどね」

その一言で、私たちはひっくり返りそうになった。彼女はこれまで、どちらかといえば男女関係において、セックスを重視していたはず。

次に会ったとき、彼女はすでに結婚したあとだった。新婚旅行は地中海に10日間。さぞロマンティックな夜を過ごしたのだろうとみんなが期待するとーー。

「結局、まだ一度もしてない」

今度こそ、みんなのけぞった。ど、どういうこと? このまま結婚生活を続けられるの? 未遂なの? まったくしてないの? 矢継ぎ早に質問が飛ぶ。

新婚旅行で一回もしなかった、という話はたまに聞く。それまでの結婚式準備でお互いに疲れているし、昼間は観光で遊んで、夜お酒が入ると何もする気が起きない、と。彼女の新婚旅行もまさに、そういう感じだったらしい。

それでも、帰ってくれば日常生活が始まるのだ。一度くらいしてもいいのではないか。「結婚してみてわかったんだけど、私、男として彼に魅力を感じているかというと、そうではないんだよね」

一緒に生活するのは楽しい。彼女自身も仕事をもっているから、今までの生活ペースを変えないが,彼はそれについて何ら不満がないと言っている。お互いに時間があえば、外で食事をしたり、一緒に作ったり。

「今晩、何を食べようか」

という会話をしているときがとても幸せなのだそう。

「この人、こんなはずじゃなかったという違和感がまったくない。だけど、じゃあ、彼にどきどきするかと言われると、それはない。彼とセックスしたいかと言われても、それもないのよ。このままでいいのかなあって思うんだけど」

うーん。みんな唸った。確かに日常生活を送るには、とてもいい相手なのだと思う。まるで最初から家族だったように。しかし、彼と男女の関係になりたいと思えない。それを察した彼も、彼女に手を出そうとはしないので、結婚前に何度かキスをした程度でとどまっている。

生活はうまくいくだろう。ただ、彼女が性欲を持てあましたとき、どうなるのか。

「私も肉食から草食になったみたい。性格も変わったのかなあ」

彼女のその言葉に、「いやあ、それはないでしょ、今だけでしょ」と、私たちは口々に言った。肉食女子が、いきなり「セックスなんてしなくていいわ」とはならないはず。まだ40歳手前なのだし。この先、いったいどうなるのだろう。私たちは、彼女の数ヶ月後を本気で心配している。

 

 

 


著者:亀山早苗
明治大学文学部卒業後、フリーランスライターとして活動。夫婦間、恋人間のパートナーシップに関する著作多数。女性の立場から、男女間のこまやかなコミュニケーションのひとつとしてセックスを重要視する。 亀山早苗公式サイトはこちら・カフェ・ファタル

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