KAMEYAMAⅢ~vol.09 彼女の“不機嫌”が怖い

 

弱い犬ほどよく吼えると言う。威張る男は小心者。そして威張らない男もまた、どこか女性に対して恐怖心をもっているような気がしてならない。よく言われる のは、「産まれて初めて接する異性が母という女性だから」という説だ。もちろん、それもあるだろうけれど、「わからないものへの恐怖」に対して、男性はとても敏感なのではないかと私は思っている。

セックスだってそう。女性は自分の体内に、相手の体内、つまり異物といってもいいものを受け入れるのだ。たいした怖れもなく。だが、男性はそういった経験がないまま年をとり、大腸の検査などで肛門から管を入れられるだけで、尋常でないくらいびびっているのをよく目にする。未知への恐怖、それに対する順応性のなさは、一般的に男性の特徴ではないかと思う。

典明さん(35歳)には、結婚するつもりで一緒に住んでいる3歳年下の彼女がいる。つきあって2年、同棲して半年たつが、この半年で、彼の彼女への見方は変わった。

「別々に住んでいるときは、会うといつも元気で楽しくて素敵な女性だったんです。でも今は、毎日、彼女の機嫌を伺う日々。その日によってかなり気分が上下するみたいで」

とはいえ、些細なことだ。寝不足で「おはよう」の声がくぐもっていたり、彼の言葉に返事がなかったり。だが、そういう些細な気分の上下が、彼にはプレッシャーになるのだという。

「大人なんだから、自分の気分くらい自分でコントロールしてほしい。1ヶ月ほど前、彼女にそう言ったことがあるんです。そうしたら急に泣き出されて。『あなたは私のことをわかってない』って。女は繊細なんだ、それを察しようとしないのは愛がないからだ、なんてむちゃくちゃなことまで言われました」

もちろん、彼女には彼への甘えがあるのだろう。だが、自分の気分の上下を他人に押しつけるのは,ある種の暴力ともいえる。そこをきちんと話し合わず、「察してくれない」と言うのは女性の逃げだ。だが、彼は,察することができない自分がいけないのか、と考え込むようになってしまった。

「それから1ヶ月、表面上は普通に暮らしてるけど、僕はどこか彼女の顔色をうかがってるし、セックスもしてない。繊細な彼女がいつも上機嫌でいられるようにしてあげたいんだけど」

豪快な母と明るい父、男兄弟で育った彼は、自分が女性の気持ちを察することができないと思い込んでいる。 「わからない、女性というものがわからない」 彼は暗い表情でそうつぶやいていた。

 

 

 


著者:亀山早苗
明治大学文学部卒業後、フリーランスライターとして活動。夫婦間、恋人間のパートナーシップに関する著作多数。女性の立場から、男女間のこまやかなコミュニケーションのひとつとしてセックスを重要視する。 亀山早苗公式サイトはこちら・カフェ・ファタル

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