KAMEYAMAⅢ~vol.10 ある男の願望

 

セックスに対しては、誰もが「願望」をもっているのではないだろうか。ごく普通のセックスをしているが、実は緊縛されたいとか、ベッド以外の場所でしてみたいとか。

由紀夫さん(49歳)は、結婚して20年。大学生と高校生の息子たちがいる。3歳年下の妻はパートで働く。明るくて信頼できる女性だという。

「子どもの手も離れたことだし、妻ともっとセックスを楽しみたいという強い願望があります」

今までの結婚生活のほとんどは子育てに追われ、妻とゆっくり話す時間がとれるようになったのは、ここ数年のこと。間遠だったセックスも、月に1回くらいには回復している。「だけど僕は、妻ともっと獣みたいなセックスをしたい。もちろん彼女が嫌がることはしないけど、たとえば身体を縛って自由を奪うとか、バイブでイカせまくるとか。昼間のラブホテルに籠もってもみたい。恋人同士だったころは、ときどきラブホに行ってたし」

だが、妻にそれが言い出せない。以前、子どもたちがいないときに、台所に立つ妻を後ろから抱きしめ、スカートに手を入れたら、こっぴどく叱られたのだという。

「彼女、セックスに対してはひどく保守的というか。お風呂に入って、夜、ベッドでするものだという固定観念があるんですよね。だから台所で後ろから襲うという僕にとって、興奮するシチュエーションを、汚らわしい行為と決めつける。まじめな妻も嫌いじゃないけど、セックスのときくらい、もっと奔放に乱れてほしいし、そういう妻を観てみたいんです」

こういう願望を抱いている男性は少なくない。セックスレスになるよりずっとマシだと思うのだが、この願望が満たされない男性もまた多い。

「かつてちょこっと浮気したこともありますが、やはり妻とはできないセックスが楽しかった。でもこの年になると、浮気するよりも、妻と刺激的な行為をしたほうが、もっと楽しいかもしれないと思うようになってきたんです。この先まだ何十年かは一緒にいるのだし、子どもも独立していくのだから、もう役割にとらわれず、夫婦が『男女』に戻ってもいいんじゃないかと」

素敵な考え方だと私は思うが、それをまじめな妻にどうやって伝えるのかが問題だろう。正面切って話しあうより、一度、さりげなくラブホテルに誘ってみたらどうだろう。行ってみたら、妻もまた、恋人時代の感覚を少しは取り戻せるかもしれない。

やってみる、と彼はまじめな表情で頷いた。夫婦関係もなまもの。時間を経ていくうちに、そのありようも変わっていく。一緒に楽しく変わっていくことが、円満の秘訣なのかもしれない。

 

 

 

 


著者:亀山早苗
明治大学文学部卒業後、フリーランスライターとして活動。夫婦間、恋人間のパートナーシップに関する著作多数。女性の立場から、男女間のこまやかなコミュニケーションのひとつとしてセックスを重要視する。 亀山早苗公式サイトはこちら・カフェ・ファタル

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