KAMEYAMAⅡ~vol.11 夫の浮気が発覚して

 

最近、ゴルファーやら官僚やら、不倫騒動はあとを断たない。そのたびに私はマスコミが大騒ぎするのをどうかと思う。不倫を知って怒ることができるのは配偶者だけのはずだから。「不道徳だ」と怒る第三者には、「あなたはそれほど潔癖なの?」と言いたくなる。 ただ、配偶者にとっては、それは青天の霹靂であり、裏切り行為だと失望することだ。夫の浮気がわかったら、妻はどういう態度に出るものなのだろうか。

「夫が酔って帰ってきて、テーブルに携帯を置きっぱなしにして寝てしまった。真夜中にその携帯が鳴ったんです。メールでした。どうしようと思ったけど、その前からどこか夫が心ここにあらずという状態だったので、意を決して見てしまいました」
40代前半のF子さんはそう言う。そこには「今日もすごく感じちゃった。ありがとう」という信じられない言葉と、ハートや絵文字が描かれていた。
こういうとき、多くの女性は怒り心頭とはならない。ショックが強すぎて、まずは受け止められないのだ。F子さんもへなへなと座り込んだ。どうしたらいいか決断できないまま朝を迎えてしまう。

起きてきた夫は携帯を前に呆然としている彼女を見てすぐに察したらしい。

「一度だけの過ちだ。許してほしい」

夫は彼女の足元にひれ伏した。彼女は一言も言葉を発することができなかった。一度だけの過ちだなんて嘘だとわかっている。だが、そこをつついても、どうにもならないことも知っていたから。

「それから1年半たちますが、私と夫の間はそのままなんです」
仲直りしたというわけではないが、ふたりの子どもたちの手前、普通に会話は交わしている。だが、彼女は必ず夫が寝静まってから寝室に入り、ツインベッドの片方に横たわる。「一度、夫が襲ってきたことがあって。でも私、必死で抵抗しました。イヤだったんです、他の女性に触れた手で触れられるのは。このままじゃいけないと思って、自分から夫のベッドに潜り込んだこともある。だけどやはりダメでした。触れられると吐きそうになる」
互いに確認しあってはいないが、触れあうことなく夫婦の関係は定着した。ただの同居人のように。夫婦というのは、これでも生活が成立するから、互いに向き合うことから逃げてしまうのかもしれない。

「いつか許せるようになりたい、そうは思っているんです」
F子さんはせつなそうに小声で言った。

 

 

 


著者:亀山早苗
明治大学文学部卒業後、フリーランスライターとして活動。夫婦間、恋人間のパートナーシップに関する著作多数。女性の立場から、男女間のこまやかなコミュニケーションのひとつとしてセックスを重要視する。 亀山早苗公式サイトはこちら・カフェ・ファタル

 

復讐手帖─愛が狂気に変わるとき 亀山早苗(著)

発売日: 2017/9/22
亀山 早苗 (著)
男の裏切り、心変わり…別れた男、不倫相手、夫…行き場を失った女の想いが向かう果て。ボンド、下剤、剃毛、暴露、破壊、尾行…実録!復讐劇の数々。