KAMEYAMAⅡ~vol.08 仲のよすぎる夫婦

 

とても仲のいい40代の夫婦がいる。
結婚して10年、その前の同棲期間5年。夫である彼は、「ナイショだけど、正直に言えば」プロも含めて、たまに他の女性と関係をもったこともある。だが、「いつでも誰よりも妻を愛している」と公言している。
共働きだが、時間が合えば待ち合わせして一緒に帰る。
休みの日にはたいていふたりで出かける。子どもがいないのだけがネックだが、できなければそれはそれで受け入れてふたりで生きていこうと考えているようだ。 ところがこの夫婦、実はもう3年ほどまったくセックスしていない。結婚してから何回したかな、と彼は目を泳がせた。もっと不思議なのは、この夫婦、毎晩一緒にお風呂に入っているというのだ。

「結婚してから、どちらかに出張でも入ってない限りは、ほぼ毎日、一緒に入ってる。のんびりお風呂に入りながら話をするのが、僕のいちばんの楽しみなんですよ」
お互いに裸でいながら、そのままセックスになだれ込むようなことは、まずないそうだ。「完璧に家族。居心地いい家族」になってしまっている。
いくら夫婦とはいえ、大人の男女が一緒に風呂に入って、まったくセクシュアルな雰囲気にもならずに風呂から上がり、ビールの一杯も一緒に飲んで寝てしまう。そんな毎日でいいのだろうか。

「それでも僕はたまに、その気になるんだけど、彼女はセックス嫌いなんじゃないかなあ。なんとなくそういう事態になるのを避けているような気がするんだよね」
欲情しなければ、性的な行為には及べない。妻からみれば、夫をすでに「男」と感じられないのではないだろうか。

「お風呂に入っているとき、あなたは妻に欲情して勃起したりしないの?」

私がそう訊ねると、彼は「まったくしない」と言い切った。それが寂しいのかもしれないね、妻は。そうつぶやいたら、彼は目を見開いて驚く。

「僕は少しでも妻といる時間を増やしたくて、 一緒にお風呂に入っていたのだけど」

その家族愛が、男女としては減点になってしまうのかもしれない。互いにセックスはなくていい、というコンセンサスが得られていれば別だけど。

「たまには別々にお風呂に入って、少しだけミステリアスな関係に戻ってみたら?」

彼はそうしてみると言っていたが、あの夫婦、その後、どうなっただろうか。

 

 


著者:亀山早苗
明治大学文学部卒業後、フリーランスライターとして活動。夫婦間、恋人間のパートナーシップに関する著作多数。女性の立場から、男女間のこまやかなコミュニケーションのひとつとしてセックスを重要視する。 亀山早苗公式サイトはこちら・カフェ・ファタル

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