KAMEYAMAⅡ~vol.07 夫の行動が怪しい!?

 

結婚して5年たつ30代のA子が、あるときため息をつきながら言った。

「最近、夫の行動が何か怪しい」

どこがどうおかしいといった確証はない。夫が寝静まったあと、携帯を覗いてみたが、女性から個人的なメールが来ている様子もない。

「だけど」

と、彼女は言う。

「週末は休みなのに土曜日の出勤が増えた。部署を異動したばかりだからしかたないと思っていたけど、土曜日は車で会社に行くこともある。なんだか不自然なのよね」

目に入れても痛くないほどかわいがっていた3歳半の娘とのコミュニケーションも減った。これに関して、夫は「急に自己主張を始めた娘にどう対処したらいいかわからない」と釈明しているらしい。

つまり、夫が浮気しているという証拠は何もない。だが、彼女は怪しいと言い張っている。

「ときどき、ふっと心ここにあらずというときがある。仕事のことを考えている表情とはちょっと違う。結婚して5年だけど、つきあった期間は7年。12年も一緒にいたのだから、彼のことは私がいちばんよくわかる」

考えすぎよ、と言うべきなのだろうが、こういうときの妻の直感というのは、当たっていることが多い。

「夫が浮気しているときってね、『ただいま』と帰ってきた、その声の様子で、『あ、女と会ってきたな』ってわかるのよ」

ベテラン主婦がそう言っていたことがあった。女の勘というのはびっくりするほど鋭い。A子は、今のうちに夫の目を家庭に引き戻したいと真剣な表情で訴えた。

「徹底的に調べて、確実な証拠を手に入れたほうがいいかしら」

今の段階で、それはどうかなと私は思う。
人は居心地のいい場所に戻りたがる。楽しいことを経験すると、さらにそれを欲するようになる。共働きで大変なのはわかるけど、夫の好物をちょっと用意してあげるとか、「太陽政策」でいったほうがいいんじゃないかと言ってみた。別れたいならいざ知らず、今はまだほじくり返す時期ではない。

「ああ、家庭っていいな」

夫にそう思わせるような工夫が必要なのではないか。甘いと言われればそれまでだが。

 

 


著者:亀山早苗
明治大学文学部卒業後、フリーランスライターとして活動。夫婦間、恋人間のパートナーシップに関する著作多数。女性の立場から、男女間のこまやかなコミュニケーションのひとつとしてセックスを重要視する。 亀山早苗公式サイトはこちら・カフェ・ファタル

 

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