KAMEYAMAⅡ~vol.09 夫とだけはしたくない

 

かつては「夫が私を女として見てくれない」と訴える女性が多かった。だが、ここ5,6年はむしろ「夫を男として見られない、見たくない」と言う女性が増えた。

「私もそうです。夫とだけはセックスもしたくない」

40代半ばの女性はそう言う。今では夫が彼女の後ろを通っただけで背筋が寒くなるのだとか。

「生理的にダメなんです。だけど会話がないわけじゃない。今はまだ子どもたちがいるからいいけど、いずれ夫婦ふたりきりになったらどうしようと思うことがあります」

30代後半のころ、酔った夫に懇願されてセックスしたとき、「吐きそうに」なったのだという。

「お酒の匂いもあったんでしょうけど、やけに夫の体臭が強いような気がして」

それ以来、夫を受けつけなくなった。だが、もともとどうしても一緒になりたくて結婚したわけではなかったから、その曖昧な決断のツケが回ってきたのだ、と彼女は寂しそうにつぶやいた。

「夫は子どもたちの父親、そして一家の大黒柱。それだけでいいと思うようになってしまった。夫婦って何だろうと最近、よく考えますね」

男と女の関係でなくても、夫婦はひとつ部屋で寝ることができる。いっさい、ボディランゲージがなくても生活していくことは可能なのだ。

「夫は同い年ですから、まだ性欲があると思います。たまに懇願されることもあったけど、ここ2,3年はもう何も言わなくなりました。どうしているのかは知りません。彼女ができるとも思えないし。家庭に影響がなければ、外でしてきてもらってもいいんですけどね」自分に性欲があって、もやもやしていたとしても、夫とだけはしたくない。そう話す女性は少なからずいる。それでいて、やはり「女として、これでいいのか」という思いもある。だから悩むし葛藤し続ける。

人に相談できることでもない。だが雑誌などで性生活が充実している人の記事を読むと、自分の人生は何だったんだろうと空虚な気持ちがわき起こる。

「早く年をとってしまいたい。そうすればあきらめられるような気がするから」

40代は女盛り。そういった風潮があるだけに、女として満たされていないという思いが強ければ強いほど、苦しむことになるのかもしれない。

 


著者:亀山早苗
明治大学文学部卒業後、フリーランスライターとして活動。夫婦間、恋人間のパートナーシップに関する著作多数。女性の立場から、男女間のこまやかなコミュニケーションのひとつとしてセックスを重要視する。 亀山早苗公式サイトはこちら・カフェ・ファタル

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