KAMEYAMAⅣ~vol.16 男のもつ破滅願望について

 

ダメな男に惹かれる女の話は、周りでもよく聞く。だが、ダメ男とつきあったあげく、自分自身も破滅する女はほとんどいない。

逆はどうだろう。悪性な女にはまる男は、女性とは違って、心の隅に破滅願望があるような気がしてならない。知り合いの40代前半のマモルさんが、今気になっているのは、30代前半のチナミさん。ふたりで季節の花を見に行ったり、お気に入りのミュージシャンのライブに行ったりするようになって1年がたつ。

マモルさんは、チナミさんに惹かれている。チナミさんから好きだというサインも出ているし、「今日は帰りたくない」とごねられたこともある。だが、マモルさんには家族がいる。結婚して十二年、子どもは十歳と七歳だ。家族を愛しているのだ。一方のチナミさんは独身。20代で婚約破棄、他の男に騙されて借金を背負ったこともある。友だちの恋人を奪ったこともあれば、不特定多数の男性と関係をもっていたこともあるとか。どうやら女性には嫌われるタイプのようで、女友だちはほとんどいない。

「そんなこともすべてわかっていて、それでも彼女に惹かれている。だけど僕には大事にしたい家庭がある。そこで気持ちが引き裂かれているんです」

チナミさんと男女の関係になったら、おそらく彼女は一気に依存してくるだろう。結婚したいと言い出す可能性も少なくない。妻に直談判に来るかもしれない。それは、チナミさんがそれほど彼を愛してるからというわけではなく、依存体質と執着によるものだろうけど、とマモルさんは言った。そこまで把握しているのに、それでもチナミさんとの「友だち関係」を続けていきたいのだという。

「彼女と男女の仲になりたいという欲求はある。だけどその後のことを考えると、そうなる勇気はない。でも彼女のいない生活は考えられない。どうしたらいいかわからなくなっています」

あなた自身に破滅の覚悟があるかどうかではないのかと、私は言ってみた。彼女と一緒になっても地獄、一緒にならなくても地獄かもしれないのだから。

「たまにいっそ破滅してしまいたいと思うこともあります。今のところはなんとか自制が効いているけど、破滅したい気持ちが強くなったら、彼女と関係をもってしまうのかもしれませんね」

男の中に、ふつふつと破滅願望がわき起こるときというのはあるのかもしれない。たとえば彼が仕事で大失敗したり、妻と決定的な不仲になったり……。それによってチナミさんのような女性になだれ込んでいったら、そこからはもう破滅が見えている。

そもそも、穏やかで安定志向の彼と、いつでも自分が注目されていないと気がすまない彼女とが、うまくいくとは思えないのだ。だが、うまくいかなくても惚れてしまうのが男女というもの。彼の自制がいつまで効くのか、そしてふたりはどうなるのか。言葉は悪いが,深い興味を抱きつつ、新たな彼からの報告を待っているところだ。

 

 

 


著者:亀山早苗
明治大学文学部卒業後、フリーランスライターとして活動。夫婦間、恋人間のパートナーシップに関する著作多数。女性の立場から、男女間のこまやかなコミュニケーションのひとつとしてセックスを重要視する。 亀山早苗公式サイトはこちら・カフェ・ファタル

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