KAMEYAMAⅠ~vol.1 色気のある社会~

 

私は始終、エロいことを考えている。実は人間、みんなそうじゃなかろうかと思っていた。だが、会う人ごとに聞いてみると、人はそうそうエロいことばかり考えているわけではないらしい。

たとえば私は電車に乗っているとき、座席に座っている男性と「エッチができるかできないか」を片っ端から検証していく 。あちらにも選ぶ権利はあるのだから失礼だとは思いつつ、「この人とならできる」「さすがにこの人はパス」などと心の中で勝手につぶやく。「好みじゃないけど、骨がしっかりした体をしてる。してみたら意外とタフで何度もイカせてくれるかも」などと妄想をふくらませるのも楽しい。

あるいはカフェなどで隣に座っている見知らぬ女性が、しきりに水の入ったグラスを下から撫で上げていることがある。そうすると、この女性はきっと彼氏のペニスもこうやって撫で上げるんだろうと想像して、この人は感じるとどういう顔をするんだろうとまじまじと見てしまったりもする。

あらゆることが性的なことやエロスにつながっていく。
イタリアンレストランで、胡椒のミルを見ただけで赤面しそうになる。あれは形状がペニスに似すぎだ 。居酒屋で、熱々の揚げ出し豆腐にかかっている鰹節が、熱気で踊るのを見て「いやらしい~」と言ってしまったことがある。体をくねらせて踊る鰹節のそこはかとないエロスは、一緒にいる誰にもわかってもらえなかった。

でも、と私は考える。いろいろなことがエロスにつながっていったら、そしてそう考える人が多くなったら、世の中はもう少し色気のある社会になるのではないか。

色気のある社会とは、人々がぎすぎすしない社会。老いも若きも、頭の中にちょいとエロスを忍ばせておけば、それに呼応する異性から声をかけられる可能性は大きい。別にいきなりホテルに行く必要もお茶を飲む必要もない。一言二言、言葉を交わすだけで、男と女の間に火花が散ることだってある。火花は散らなくても、知らない人と少し話して気持ちが柔らかくなるかもしれない。

色気のある社会は、今より少し穏やかな雰囲気になるはずだ。

 


著者:亀山早苗
明治大学文学部卒業後、フリーランスライターとして活動。夫婦間、恋人間のパートナーシップに関する著作多数。女性の立場から、男女間のこまやかなコミュニケーションのひとつとしてセックスを重要視する。 亀山早苗公式サイトはこちら・カフェ・ファタル

人はなぜ不倫をするのか 亀山早苗(著)

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