KAMEYAMAⅣ~vol.26 愛って何?

 

結婚している年上の男性を好きになってしまったと嘆く女性と知り合った。会社員のアキコさん(34歳)だ。彼は職場の上司で、一回り以上年上の48歳。

「職場で不倫するなんて、私としたことが最低だと最初は思っていたんです。早くこの関係から抜け出さなくてはと考えてた。だけど、彼と会えば会うほど惹かれていく。職場では毎日顔を合わせるから、会わずに忘れていくこともできない」

彼は、たやすく「妻と別れるから」などと言わない。アキコさんとの関係を決定づけるような言葉も吐かない。

「好きだといつも言ってくれる。自分はずっとつきあっていたい、とも。だけど私が結婚したい人を見つけたら、いつでも身を引くとも言うんです。それは逃げだと私は何度も非難した。そうすると、彼は寂しそうな目をするだけ。そのうち私も彼との関係を大事にしたいと思うようになって嫌みさえ言わなくなった。それで4年、続いています」

このままだとあと5年や6年は簡単に続いてしまいそうだと彼女は言う。そのとき、振り返って後悔はしたくない。だが、彼と別れても、彼より好きになれる人に出会えるとも限らない。妻子ある人を好きになった誰もが陥る葛藤とジレンマに、彼女も苦しみ続けている。

「愛ってなんだろうと思うんです。彼には家族がいて、経済も時間も家族に捧げている。じゃあ、私は? 私は彼から何をもらっているんだろう。逆に私は彼に何を与えることができるんだろう。そう考えると、何もできない自分がいて……。せつないです」

アキコさんがどれだけ彼を愛しているか、この言葉からもよくわかる。だが、どんなに望んでも、彼から同じだけの心は、気持ちは返ってきているのか。

それでもいい、少ない時間をともにしたいと思えるのが、「愛」なのかもしれない。こればかりは、感覚に個人差が大きいし、人によって価値観も大きく異なるのではないだろうか。

恋に「意味」を見いだそうとしたとき、その恋は純粋に相手を思うだけではなく、余分な要素を帯びてくるのではないだろうか。

何が「報われること」なのかわからない。結婚なのか、長くつきあうことなのか、あるいは激しく愛し合うことなのか。彼を好きでいることで、アキコさんなりの価値観が構築されてくるような気もする。なにより、善悪は別として、それほど好きな人と別れることができるとも思えない。

「損ばかりする恋愛なんです。それなのに別れたいと思えない自分が悔しくて」

正直な人だと思う。こういうとき、多くの人は「別れられない」と言うのだ。だが、彼女は「別れたいと思えない」という言葉を使った。それがアキコさん自身の本音なのではないか。そう言うと、彼女は少し表情をゆるめた。

愛とは、損得を考えずに相手を思い続けること、なのかもしれない。彼女の優しい笑みを見ながら、私自身、そう考えてしまった。

 

 

 

 

 


著者:亀山早苗
明治大学文学部卒業後、フリーランスライターとして活動。夫婦間、恋人間のパートナーシップに関する著作多数。女性の立場から、男女間のこまやかなコミュニケーションのひとつとしてセックスを重要視する。 亀山早苗公式サイトはこちら・カフェ・ファタル

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