KAMEYAMAⅣ~vol.02 結婚してから同性愛だと気づいて

 

ふとしたことから、同性愛者だという男性・学さん(43歳)と知り合った。ところが彼は結婚している。高校生と中学生、ふたりの息子の父親でもある。

「僕が実は男のほうが好きなんだと気づいたのは、結婚してからなんです。いや、今になると、高校生のころから薄々気づいていたような気がするけど、自分で自分の本音を見ないようにしていたのかもしれない」

学生時代からつきあっていた同い年の女性と、26歳のときに結婚した。すぐに長男が生まれ、二年後に次男が生まれた。

「奥さんは、とっても明るくていい人。家のことは完璧だし、母親としてもすばらしいと思う。ただ、下の子が生まれてからセックスはしなくなった。それで僕、ちょっと悶々としていて、風俗に行ったんですよ。ところが、いざとなると全然その気になれなかった」

お金だけ払って、逃げるように店から出た。そのまま帰る気にもなれず、近くのバーでひとりぼんやり飲んでいると、「ご一緒してもいいですか」と声をかけてきた男性がいる。

「ちょうどその頃、仕事でもいろいろ悩みがあったんだけど、彼と話していたら、なんだかとっても気が楽になって。しばらくたって、ふと彼が言ったんです。『あなたはゲイじゃないの?』って。そのとき、妙にドキッとしたんです」

彼と話していたときの学さんは、恋心のようなものがわき起こっていたらしい。学さんは素直に自分の気持ちを白状した。

「もしかしたらそうかもしれない、だけどわからない、と。彼は僕をホテルに誘いました。あれは好奇心だったのかなあ、酔っていたせいもあってついていっちゃったんですよ」

当時、学さんは30歳、彼は25歳だった。彼のてほどきで、学さんはとても素敵なセックスを体験したのだという。同時に、やはり同性が好きだと確信したそうだ。

「だからといって離婚しようとは思いませんでした。子どもたちはかわいいし、家庭もうまくいってないわけじゃない。もちろん、奥さんに告白できないのは苦しいし、罪悪感もあるんですが」

当時の彼とは、二年にわたってときどき会っていた。だが、ステディな相手ができたのをきっかけに、彼は学さんのもとを去って行った。

「こっちは結婚しているから、引き止められないですよね。あれは精神的にきつかった。遊び相手ならいても、同性が恋愛対象の場合、なかなか本気になれる人はいないんです」

その日知り合った人と数時間をともにすることは今もある。だが、彼はできれば心身ともにどっぷり愛し合える相手を求めているのだという。そして、そう思うたびに罪悪感にも苛まれている。

結婚してから自分の本当の性癖に気づいたことで、こんなふうに苦しむ人もいる。世の中、本当にいろいろな人がいるものだと実感してしまう。

 

 

 


著者:亀山早苗
明治大学文学部卒業後、フリーランスライターとして活動。夫婦間、恋人間のパートナーシップに関する著作多数。女性の立場から、男女間のこまやかなコミュニケーションのひとつとしてセックスを重要視する。 亀山早苗公式サイトはこちら・カフェ・ファタル

復讐手帖─愛が狂気に変わるとき 亀山早苗(著)

発売日: 2017/9/22
亀山 早苗 (著)
男の裏切り、心変わり…別れた男、不倫相手、夫…行き場を失った女の想いが向かう果て。ボンド、下剤、剃毛、暴露、破壊、尾行…実録!復讐劇の数々。