先日、40代前半の尚子さん(仮名)に、突然、相談を持ちかけられた。
「私、本当は女性のほうが好きなんだと思う」 彼女は結婚して20年近くなる夫と、ここ10年、ほぼセックスレス。
「私は女として価値も魅力もないのかしら」 と悩んでいた。それが今度は、同性が好きというカミングアウト!?
「思い起こせば、私、中学から大学まで女子ばかりだったの。ファーストキスも女の子だったのよね」
高校時代は、友人の家に泊りに行って、体をまさぐりあったこともあるという。だからといって同性愛者だと自覚することはなく、普通に恋愛して、三人目の男性と、ごく普通に職場結婚した。
「女は男を好きになるものだと思い込んでいたのよね。だけど私、今、すごく好きな人がいるの。それが女性なのよ」
子どもの手が離れた数年前から、彼女はパートで仕事をしている。ジュエリーの販売だ。話し方も立ち居振る舞いも上品な彼女にはぴったり。ジュエリーが大好きで、知識も相当豊富らしい。
彼女が好きになったのは、ときどき店に来る客だという。彼女の姿を見るだけで,胸がときめいてしまうのだそう。だからといって、客と個人的なつきあいはできない。ジュエリーなど、しょっちゅう見に来るわけでもないだろうから、頻繁に顔を見られるわけでもない。だから恋心が募ったのだろうか。
「とても性的な意味合いを込めて好き。彼女の体を隅から隅まで眺めて、愛撫したい。彼女の喘ぎ声を聴きたいという欲求が、ひたすら募っていくのよ」
はぁー、と彼女は大きなため息をついた。恋に苦しむ女そのものである。
私は同性に対しては、友情や好意以上の感情はどうしてもわかないが、世の中には同性に恋して何もできずにつらくなっている人もいるのかもしれない。
「もう夫に抱かれたいとは思わない。彼女のほうが柔らかくて気持ちいいだろうなってそればかり考えてる」
ある日突然、同性に恋するという感情がわいてくるものなのか、あるいは封印されていたものがわき出てきたのか、はたまた夫の代替として求めているのか、私にはわからない。そんな境遇で、尚子さんがどうするべきなのか、どうしたらいいのかもわからない。ただただ、私は尚子さんの甘いため息混じりの片思い話を聞くしかできなかった。
著者:亀山早苗
明治大学文学部卒業後、フリーランスライターとして活動。夫婦間、恋人間のパートナーシップに関する著作多数。女性の立場から、男女間のこまやかなコミュニケーションのひとつとしてセックスを重要視する。 亀山早苗公式サイトはこちら・カフェ・ファタル