KAMEYAMAⅢ~vol.16 婚外恋愛で元気を取り戻す男たち

 

元気を取り戻すというよりは、かろうじて自分を保っていけるといったほうが正しいのかもしれない。前日の忠伸さんのように、婚外恋愛があることで、日々をどうにか前向きに過ごしているという男性は、実感として増えていると思う。妙な言い方だが、男性たちは「まじめに恋愛している」のだ。

「家庭に支障がきたしてはいけない。でも、男も50歳を目前にすると、心が揺れ動くんですよね。このままオレの人生は終わってしまうのか、と」

真一さん(48歳)はそう話してくれた。女性の中には、50歳を前にして「このままじゃ死ねない」と思うほど「女」というものに固執する人がいるのだが、男性の焦燥感はもう少し漠然としたものなのかもしれない。

「40代半ばになってから、男としてどうというより、ひとりの人間として満たされていないという気持ちが強くなりました。私が死んでも家のローンは生命保険で払えるし、子どもも、もうひとりで生きていける年齢に近い。妻はパートや趣味で新しい友だちが増えて楽しそうだしね。オレの人生、なんだったんだろうと思いますよ」

真一さんは、地域の子どもたちのサッカークラブでコーチをしている。自分もフットサルを楽しんでいるのだという。それでも満たされない何かがあった。

「夫とか父親とかコーチとか、そういうところから離れて、自分をひとりの人間として認めてくれる場がほしいと潜在的に思っていたのかもしれませんね」

勤務先に派遣で来ている33歳の女性と仕事を通じて親しくなった。そして彼女が派遣を辞めて別の会社に正社員として勤めることがわかったとき、彼は「このまま別れたくない」と思い、食事に誘った。そしてそのままホテルへ。

「浮気なんてしたことなかったですからね、自分でも自分の行動の早さに驚くほどでした。でも彼女と会えなくなるのは、本当につらかったんです」

それから1年。彼は週に1度は、彼女の一人暮らしの部屋を訪ねる。ときにはふたりで映画に行ったり食事に行ったり。

「彼女と一緒にいると、心からくつろげるし、楽しくてたまらない。いつまでも続く関係だとは思ってないけど、この時間を手放したくないんです」

彼女とつきあうようになってから、みんなに「若くなった」と言われるのだとか。前から健康には気を遣っているのだから、おそらく表情や言動が明るくなったのだろうと彼自身は分析している。  恋は確かに心満たしてくれる情熱を秘めている。それをいいとか悪いとかは、誰にも言うことができないのかもしれない。

 

 


著者:亀山早苗
明治大学文学部卒業後、フリーランスライターとして活動。夫婦間、恋人間のパートナーシップに関する著作多数。女性の立場から、男女間のこまやかなコミュニケーションのひとつとしてセックスを重要視する。 亀山早苗公式サイトはこちら・カフェ・ファタル

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