KAMEYAMAⅠ~vol.16 エッチはしなくちゃいけないもの?

 

草食系男子などと言われて久しいが、男が優しくなっているのは本当だ。
年上であろうと同年代であろうと、女性に対する気遣いが一昔前の男とは違う。

「荷物をもってくれるのは当たり前。道を歩くときはさりげなく車道側へ回るし、後ろから自転車が来ると『危ないよ』と背中を軽く押してよけるように誘導してくれる。あんまり優しくてびっくりしちゃう」

7歳年下の彼とつきあうようになった34歳の女友だちがそう言った。
一緒に食事をしたら、魚の骨をとって身だけ彼女の前に置いてくれたのだという。

「気持ちが優しいのはいいわよ。だけどねえ、そういう男はやっぱりどこか覇気がないの」

彼の仕事は派遣。社員になろうという気概はない。自分のやりたいことがあるわけでもない。その日その日を何とか暮らしていければそれでいいと考えているようだ。

「趣味はあるのよ。彼はものすごい映画通。日本映画をあれだけ知っている人を見たことがない。だけどそれを仕事につなげる気はないの。こういう生き方もいいかなあと思っていたけど、つきあって3ヶ月、少しいらいらしてきた」

なかなか手を出してこない彼にいらだち、「襲うようにしてエッチした」のがつい最近。
だが、彼は特にセックスに思い入れがあるわけではなく、「やっとひとつになれた」と感動した彼女に対しても、「ねえ、セックスってそんなに必要?」と言い放ったという。

「本当に無邪気にそう聞くのよ。だって愛情の確認でしょって言ったら、人間は何のために言葉を持っているのかなあって。そう言われればそうだけど」

動物でもする「交尾」より、言葉のやりとりのほうが愛情を確認できる。
それが彼の言い分。確かにね、と私も笑った。

「でもそれじゃ物足りないのが人間でしょう?快感だって動物とは比べものにならないと思う。生殖のためだけにエッチしてるわけじゃないんだから」

彼女はそう彼に言ったが、彼は「ふうん、そういうものかなあ」とあっさり答えただけだったとか。

「このままつきあっていっていいかどうか、悩んじゃうわ」

ふたりがどうなるのか、報告を待ちたい。

 


著者:亀山早苗
明治大学文学部卒業後、フリーランスライターとして活動。夫婦間、恋人間のパートナーシップに関する著作多数。女性の立場から、男女間のこまやかなコミュニケーションのひとつとしてセックスを重要視する。 亀山早苗公式サイトはこちら・カフェ・ファタル

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