STD kinen
現役風俗嬢が送る人生ルポ
『性感染症日めくりカレンダー』の制作秘話
今回はモラルドーナツ『性感染症日めくりカレンダー』の制作秘話。実話です。
２００１年６月にカレンダー制作スタート。はじめは、HAW(ハウと読む。HIV and
Women：ターゲットを女性においたＨＩＶエイズ予防啓発のための団体)さんから、若者向けの性感染症予防のパンフレットを作らないか、というお話をいただいたところから。印刷代が出る、ということで。ノリにノッていたモラルドーナツは、当然ヤル気になりました。フリーペーパーの発行を休止して、いざ、１０人の女子がパンレット作成へ！一丸と！と、なったらよかったんだけど、まとまるはずがない。しょっぱなから難航、みんなの意見ぜんぜんまとまらない。難破船が僕の住みかさ、といきなりオナカのあんこが重くなっていた。たんなるパンフレットじゃなくて、いつでも手元においてもらおう、ということで、日めくりカレンダー形式になったんですが、も、そこまで持っていくのだけでも３ヶ月かかってる。２００１年中に完成する予定が、ずるずると延びていき。会議に次ぐ会議。この企画を機に、モラルドーナツのメンバー内メーリングリストが発足したのですが、そのメール数の移り変わりを、後にグラフにした酔狂な人がいて、それによると、メールがもっとも活発に出された２００２年の１月の一ヶ月の間に、１５０通の投稿がなされてた。おかしい、この人たち。そのころが、肉体的精神的な限界のピークでもあったなあ。カレンダーが完成したのは、ほぼ一年後の２００２年７月なのですが、そのころには、投稿総数も千通に達する勢いでした。恐ろしい。お前らそんなにメールが好きか！しかし、そのくらいに苦労した甲斐があり、すばらしいもんができました。その特徴をあげると、
【カレンダー形式】
・身近においておきやすい。友だちにも見せれるもの。冊子はしまってしまい、読まなくなることが多いので。
【行為別の見出し】
・性病の名前が並んでいても、どういう行動にどの程度リスクがあるのかわかりにくいので、自分がやっている行為をチェックできるようにした。
【ポップな絵】
・興味をそそられるようなかわいくてカッコイイイラスト。
【文章を短く、小さく】
・ドギツく思える言葉がぱっと見目に入らないよう、字の大きさを小さく。簡単に読めるよう文章は簡潔にわかりやすく。
【性病に対するイメージを変える記述】
・「汚い、恐い」→「当然のもの、治療すれば治る」、「恥ずかしい」→「病院に行くのは健康管理上よいこと」と、ネガティブイメージを変換するスタンスが基本。
【セクシュアリティの多様性への配慮】
・ヘテロ中心→多様なセクシュアリティをいれる。どんなセクシュアリティの人でも疎外感を感じない姿勢を表したかったのと、ヘテロ以外の人のSTD予防情報がすくないので。
【ＶＳ「愛」中心主義】
・やめた。愛や信頼で性病は防げないから。【HIVとSTDを同等にあつかっている】・一般的なパンフレットではHIVだけ特別な扱いになっている一方で、STD情報がほとんどない。でもSTDにかかっているとHIVにかかりやすくなるので、HIVもSTD
も同じような扱いにした。
【性器の名称】
・いろいろな呼び方を使った。「ヴァギナ」は性教育っぽくて身近ではないので。
と、まあ、すごい。
このカレンダーは、本当によく出来ていて、こんな形式で親しみやすく読みやすくわかりやすい性感染症パンフレット、世界（私の脳内）探したってない、どこに出しても恥ずかしくないです。ぜひ、皆さんのお手元にも一冊！と思っています。
今回、この原稿を書くために、過去の資料、メールを改めて見たのですが、も、涙あり、笑いあり、憎しみあり、友情あり、一大抒情詩でした。やっぱり、一番すごかったのは、妊娠中だったメンバーの一人が過労のあまりか、早産したことです。無事すくすく育っているからいいものの、そうじゃなかったらマジシャレになりませんでした。その子ももう４歳。すごいかわいい。彼女はカレンダーと共に歳をとるわけです。この感動一大巨編を琵琶法師にでもぜひ語りついてもらいたい。
私は、複数の人と何かを作り上げる、というのはこれが初めてで、人とコミュニケーションを図ること、自分が集団の中で何をしたいか自問すること、それを表明すること、妥協すること、自分とは違う考えを聞くこと、そういった中で新しい何かが生まれること、そんなありとあらゆることを経験しました。しかし、それと共に、何回も「もうイヤだ」と涙目になりながらメールを打っていたこともマザマザと思い出しました。ホントにいろいろあったけど、結局できたんだよな、カレンダー。えらいな、モラルドーナツ。そんな軽い謝辞で、結ぼうと思います。
田中課長
風俗風来坊。マンガ好き。日記書いてます。どんぞお立ち寄りください。（※開店中）
