第10回 「アメリカのハンター文化」

学生時代、バイト先に理系大学出身の男がいた。 高校は男子校、大学も男だらけだったらしい。 女に免疫がないようで、まともに目を見て話せない。 風俗経験はあるのか、純粋な童貞なのか。 いつもナイロンのズボンがお尻に食い込んでいるのを見つめながら、 勝手に彼の下半身を心配していた。 とはいえ、さほど惨めというわけでもない。 アニメやゲームの話になると楽しそうにしているし、 周りも「この人オタクだし」と納得している。 日本は「女がいなくても、なんとかなっちゃう社会」だ。

アメリカではそうもいかない。 モテなくても、話すのが苦手でも、女性をもてなす力が要求される。 例えば高校生の一大イベント、プロムと呼ばれる卒業ダンスパーティー。 結婚式並みにドレスアップして、男女ペアで参加するのが基本だ。 女子は美容院やネイルサロンに行って気合いを入れ、 男子は花束でロマンチックなお迎えを演出しなきゃいけない。 プロムが近づくと

「誰と行くの?」
「ケイティを誘っちゃえよ」
「マイクはどうするのかな」

と探りを入れて色めき立つ。人気者は取り合いになり、 残りものは他学年や他学校まで声をかけて相手を探す。 モテない高校生が頑張る青春コメディ「アメリカンパイ」の世界そのもの。 恥をかきたくないから、みんな必死だ。 日本の学園祭や花火大会の比じゃない。

 プロムのほかにも、学校でのダンスパーティーはしょっちゅうある。 ドレスパーティーはプロム同様、男女で参加するもの。 友達同士でもOKだから、パーティーに誘う=告白ではないけれど、 お迎えの演出は大事。 当日、男友達が私の家まで一輪のバラを持って迎えに来たとき、 「こりゃ日本の男は敵わないわ」と悟ってしまった。

10代にして紳士力を試されるシビアな文化で生きてきたアメリカ人と、 異性と交わらなくても恥をかくことがない日本人の経験値は雲泥の差。 そりゃハンターに育つよ。 日本人が突然「草食はいかん!アメリカ人を見習え!」と言われても、 場数を踏んでいないから到底ムリなのだ。

草食系男子にはうんざりだし、「男子校だったから」「忙しくて」という モテない男の言い訳も聞き飽きた。 ついつい積極的なアメリカ人と比べてしまうけれど、育ってきた環境が違いすぎる。 根本的に違う生き物なのだと思えば、 ズボンが食い込んだお尻も笑って許せるような気がしてきた。


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