第16回  「エ・アロール」

古いお話で恐縮ですが、2002年12月30日月曜日の朝日新聞朝刊の読者投稿欄で見つけた記事です。

あれは、高2の孫娘が夏休みに1週間ほど泊まり込みでやってきた、ある夜の出来事であった。 
女房も孫娘も奥の間で夢路についているに違いないと、私はパソコンをインターネットにつなぎ、ヌード鑑賞をしていた。目を皿にして画面を見ていたから、背後に孫娘が立っているとは夢にも思わなかった。
 だから「じいちゃん、こんなものに興味があるの」と彼女に声をかけられたとき、マウスを握っている私の右手は小刻みに震えた。画面の矢印マークも右往左往である。
 だてに70歳という馬齢を重ねているのではない。私は落ちついたふりを装いながら、「男には雄の本能があってな、じいちゃんみたいなジェントルマン(?)でも、裸婦が見たいんじゃ。だから、お前も今後、めったなことで衣服を脱いではならんのじゃ」と、半面教師役となった次第である。

 翌朝、女房からこっびどくお目玉をくったことは、言うまでもあるまい。

これが、投稿氏の全文です。私は思わず吹き出し、しばらくは腹を抱えて笑い転げました。江戸艶笑小話を聞いているような気分で、気持ちの良い笑い疲れを味わいました。 これも、どっかから拾ってきたネタです。手帳に大切にメモっています。 かって、フランスのミッテラン大統領は女性関係が華やかで、外に子供がいると噂されていたそうです。そこであるとき、新聞マスコミたちが大統領に直接尋ねた。「あなたには婚姻外の子供がいるということだが、それは本当ですか」 すると大統領は即座に両手を開いて聞き返した。

「エ・アロール」

この一言で、記者はみな黙り、そのまま、そのことは二度と、蒸し返されることはなかったそうです。
「大統領は、エ・アロールといったが、われわれは政治家の汚職や金銭上のトラブルについては追求するが、男女関係は個人的な問題なので、ことさらに問題にはしない。フランスは野暮なアメリカとは違う」と記したそうです。 このエピソードは、当時フランスにいた人や、フランスに詳しい人のあいだでは、比較的知られた話だそうです。

どうも、性の分野は本音とタテマエが交差しやすいようで、いつのまにか本音かタテマエかそれさえも判然としなくなる、マスコミも世間の御仁たちも、そして当人も・・・・・。そんないやらしい風潮を、江戸の人たちは少しばかりの毒気を込めて明るく笑い飛ばしていた。それが江戸艶笑小話。今の時代からたった400年前のことです。

フランスには今でも、性に対する毒気と明るい笑いが健在なようです。日本でも投稿氏のような70歳のジェントルマンが増えると、きっと性に対する野暮な風潮が変わるだろうに、と思うのです。

ちなみに、「エ・アロール」というフランス語は、「そんなことどうでも、ええ、やろう」という意味、とのことです。


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