
第十回 「Rさんの変貌」
Rさんはうつ伏せになっている。私は、左の掌を彼女の肩甲骨と肩甲骨の間にそっとあてる。右の掌は、仙骨にあてている。左右の肩甲骨の中心のあたりは、未解決の苦しい感情が鬱積される場所で、筋肉の慢性的緊張をほぐすための最も重要なつぼとされている。一方の仙骨は、性エネルギーの宿る貯蔵庫としてよく知られている強力なヒーリングのつぼで、仙骨への手当ては、根深い性的トラウマや生理痛にも効果的だ。Rさんの体のつぼに掌をあてて、そのまま動かさずにおく。私の掌にはヒーリングの力がある。掌のぬくもりが心地良い力で体のつぼに染み込んでゆく。肩甲骨の中心あたりに溜まった否定的な感情は開放され、目に見えてリラックスしてくる。仙骨に掌をあてておくと、母の腕の中で安らぐ赤ちゃんのように、根本的なレベルの安心と満足を得ることができる。Rさんは、意識が変貌し、なかば夢見心地になっている。
「わたし、母に抱っこされた記憶があまりないの」
ため息にかろうじて音声が混じっているかのような声で呟いた。
赤ちゃんの泣き声は抱っこを誘い、微笑みは抱っこを続けさせる。泣き声は、“わたしを抱いて”、笑顔は、“離さないで”、と語りかけている。赤ちゃんはおなかがすいたり苦しかったりする時だけに泣くのではなく、実にしばしば、もっと抱っこを、と要求するためにだけ泣く。赤ちゃんは際限もなく、母親の「気」を注いでもらうことを必要としているのです。だから、ただマニュアル的なタッチではなしに、「気を通す」ようにふれてあげれば、ふれあいの質はもっと高まります。医者が患者に触れるような分析的なさわりかたでなしに、皮膚のどの一点が触れても、そこで二つの生命がまっすぐに向き合っているのだということを深く感じ、そこから拡がる他者との一体感を大切に思う、そのような感覚が養われます。
仮面を被った冷ややかな夫婦関係、親が自分の目論見どおりに子を教育する。そんな寒々とした家庭に育ち、幼いときにあふれるほどの愛撫を受けられなかったRさんは、大人になってから「ふれあいの失敗」を繰り返し、自分の体を疎ましく呪い、自分自身を嫌悪するようになっていた。肉体的にふれあえぬことは感情的な孤立をともなうのです。「ふれあいの失敗」が母から子に仕掛けられた悲しいケースですが、不幸なことにこうした例は、Rさんに限らず、TAOでいくらでも見聞することがあります。
月に一度のペースで五回目のヒーリングの頃には、生身のふれあいを通してRさんの体に強張りついていたヨロイはすっかり脱ぎ去られ、体全体がみずみずしいしなやかさを回復し、長い間苦しんできた生理痛は解消されていた。
「こうしていると、母の胎内でまどろんでいるような、なんだか、不思議な感覚」
「至福感って、いうのかな、とっても気持ちがいい」
皮膚感覚がますます鋭敏になり、「触れた分だけの歓び」を体が素直に反応するようになってきた。「われわれの身体で最も偉大な感覚は、タッチの感覚である。それはおそらく、寝ているときにも起きているときにも、主要な感覚なのだ。皮膚にちりばめられた感覚を通して、われわれは感じ、愛し、心を動かされる」と言ったのは、 J・L・テイラーだったか。皮膚は心の状態の鏡だと思う。良質な皮膚コミュニケーションを通して、体ばかりでなく、心理や人格形成をよりよいものにしてくれる。もちろんこと、性感も。
人付き合いの苦手だったRさんは、TAOのワークショップや混浴露天風呂ツアーなどのイベントやTAOの外人グループのプライベートパーティなどにも積極的に参加するようになり、フランス人のマドモアゼルを含めた仲良し四人組たちと楽しそうにお付き合いするようになった。
「もう、TAOは卒業だね。あとは、自分で彼氏をゲットしてね」
一年ほど経ったころに、私がそう言うと。
「TAOはエステに行くような感じで来ます。もっともっとオンナ磨きしたいから」

このコンテンツは女性向けアダルトショップ☆ラブリーポップ☆が運営しています

このサイトを友達に教える!

>> BACK
(C) LOVELY POP