
第三回・「ふれあう歓び」
人は誰でも人生の最初に、人生最大の苦しみを味わうことになります。子宮の中にいる時のように、完全に保護され、すべてを与えられ、ライバルもなしに世界を独占できる状態はもう二度とありえないのです、そこから引きはがされる苦しみを上まわるものはないでしょう。
この子宮離脱体験は、人生全体の基奏低音になっていて、人は無意識のうちに、あらゆる機会をとらえて、子宮の代わりになるものを探そうとするのです。生まれてすぐの子どもは、母親の胸や手の皮膚接触を必要としています。子宮の代わりに、ひんぱんな皮膚接触に護られることなしに、乳児は安定した世界をもち得ません。触覚はあらゆる感覚の母だといわれています。それというのも、母親の胎内で最初に形成される感覚は、皮膚全体が安らかに包まれている幸福な触感だからです。
セックスでの互いの皮膚接触は掌、指でのマッサージから口唇、舌での愛撫、広汎な皮膚の接着を通じての筋肉のほぐし、血行の活性化、経絡刺激による気の交換、さまざまな不随意運動の誘発と展開し、性器接触を軸とした中枢神経の深い部分からの愛撫をへて、気の爆発的な開放にいたり、「死のように深い休息」に向かいます。 セックスは皮膚接触によって永遠の母胎感覚を共有すること、つまり愛とは二つの魂の調和と二つの皮膚の接触、ふれあい、それは人生の手段ではなく、生の今ここの目的そのものなのです。
ところが、昨今の商品化されたセックス情報は、人をたえまない欲求不満に追い立て、強いセックスや完全なオーガズムへの期待が強迫観念となって、他人とふれあうことの下手な「ふれあいの失敗」をくり返す人間を大量に生み出しているようです。 そして、「ふれあいの失敗」をくり返す彼または彼女は、無意識のうちに母胎の代替を探し求めます。ナマ身でふれあいを回復する機会を持たない人のために、ふれあいを職業とする一群の人々がいます。美容院での顔や髪へのボディタッチ、エステサロン、整体やマッサージ、犬や猫などのペットとのボディタッチ、などは必ずしも性の代替行為だとは言いませんが、女性のための性感マッサージ師や男性のための風俗の女性たちは、職業的タッチャー(toucher)だと言えるでしょう。
愛とはつまるところボディタッチだといっても、ボディタッチがそのまま愛ではありませんが、「ふれあいの失敗」を癒すのは、皮膚の感覚を養い、触覚を開放し、母胎経験を座標軸とした皮膚接触による快楽のレッスンが必要だと思います。
強いセックスや完全なオーガズムのための手段としてでなく、「ふたりくつろぎ」の延長としてのセックスは、過大な幻想から逃れて、皮膚接触による快楽のレッスンとなり、「触れた分だけの歓び」を(異性間であれ同性間であれ)あらゆるふれあいを通じて感じられるようになることでしょう。リラックスしてこわばりを捨て、感覚をいっぱい開けば、この世はふれあう歓びに満ちあふれているのです。

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