第二回・「ゴリラ教授」

遠い遠い、はるか昔の物語から始まります。

樹上生活から、危険なサバンナでの生活を余儀なくされた、お猿さんのある一群は、やがて、二本の足で生活するようになる。四足のときの、後背位に限定されていたセックス体位から、対面セックス体位が可能になり、セックスバリエーションが豊かになる。

二足歩行で空いた手は、男は、武器や道具を使い。女は、我が子を抱く。男は、槍を持つ手で夜は女をまさぐる。女は、赤ん坊を抱く手で男を愛撫する。性的タッチングの獲得で、性の快感が高まっていく。

仲間とのコミュニケーションによって発達した言語は、セックスでは、いざない・あえぎ、となって、性的官能表現が豊かになり、脳の快感中枢を強烈な刺激で揺さぶる。肉体的快楽に精神性を伴った快楽が付け加わり、性の快感は、さらに増進する。 発情期を失い、周年発情への道を選んだヒトは、季節を問わず四六時中発情し、いつでもその気になればセックスができる。生殖の性から快楽の性の獲得。すけべ種哺乳類の出現、つまり、これがヒト科ヒト属ホモ・サピエンス種、人の誕生の物語だとされている。

アフリカのサバンナで発見された最古の人類ルーシから、500万年という気の遠くなりそうな時空を経て、現在の我々がいる。

脳あるゆえに人であるという。その脳は、ヒトの進化の終着点である、性を獲得することで完成された。脳は快感刺激を貯蔵するための臓器であり、脳は人間行動の司令塔ともいえる。故に、性は「脳」なり、性は「生」なり。

こんな深遠なことを考えたのは、もちろん、私自身ではありません。京都大学名誉教授の大島 清先生から学んだ、『ヒトの進化と性の獲得の時系列』の雄大なコスモロジーです。先生は、産婦人科医であり、脳生理学者であり、性科学者として世界的に有名で、日本でも、テレビやマスコミなどでエネルギッシュにご活躍されています。

胴長短足で分厚い胸、真っ黒に日焼けしたゴツイ顔は、人間で言えば古武士の風格です。しかし、目には愛嬌があり、笑うとガキ大将の面影になります。失礼ながら、動物に例えればゴリラそっくり。京都大学霊長類研究所で、お猿の研究をされていたこともあって、先生自らご自身のことを、「ゴリラ教授」と称して人を和ませておられます。

八ヶ岳にある先生の別荘は、<サロン・ド・ゴリラ>と名づけられ、多彩な人々との交流の基地になっています。ある研究会でお目にかかってから、私は先生の人柄に魅惑され、1993年3月7日には、先生を神戸にお招きしてご講演をお願いしたこともありました。

大島先生はじめ、世界のセクソロジストで組織する、「世界性科学学会」という学会があります。ここに参加する、諸外国のセックスセラピストたちは、治療に必然性があって、クライアントが希望する場合には、性行為も辞さないとのことです。諸外国に比べて、日本の性の臨床は実践から程遠い、隔靴掻痒の感というか、もどかしい思いがします。


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