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おとなごっこ

男と女・セックスについてのコラム

ザ・セックスレス1

 

ぼくは26歳で結婚しました。今年で45歳になりますから、来年は結婚20周年を迎えることになります。光陰矢のごとしとは言いますけど、月日が経つのは本当に早いものだなとしみじみ思います。そんなぼくには、ふたりの子どもがいます。17歳の娘と13歳の息子です。子どもがいるということは夫婦の営みをしてきた証でもありますが、息子が生まれた直後から数年間、ぼくら夫婦はセックスレスでした。

 「でした」ということは過去形です。何年くらいセックスレスだったのか正確な記録などないのですが、7〜8年であったかと思います。その間、夫婦それぞれに悩み苦しみ、一時は離婚話が持ち上がるほどまでいったものの、どうにかそれを乗り越えて、現在は細々とですがベッドを共にする夜を持つようになりました。

 そもそも、ぼくらがどうしてセックスレスになったかというと、その理由は幾つかあったように思い返されます。妻は元来、セックスに対してとても淡泊でした。嫌いなわけでもないけど好きでもない。こちらから誘えば受けるものの、あちらから誘ってくることは皆無。一方の夫は、精力旺盛な三十代、セックスの盛りです。出産から育児という時期に夫のセックスの相手などしてられない、という妻の言い分もそれはそれで正当な気がするものの、そこに夫婦間の溝が生まれたことは否定のしようがありません。

 悪いことに、この夫は夜遊びが好きでした。おまけにモテた。決して二枚目でもないのに、不思議と女性関係には事欠きませんでした。そして、セックスへの欲求を外で満たし始めた夫は、次第に妻とのセックスに希望を持たないようになり、誘うこともなくなりました。やがて夫婦間にセックスの概念は失せ、ここに立派なセックスレス夫婦が誕生したわけです。

 文字で書いてしまうとそれだけですけど、その間には星の数ほどの苦悩がありました。とりわけ、男の立場で書かせてもらうとすれば、「誘いを断られた」ことによる心の傷が言い知れぬほど深かったように思いだされます。それを浮気の言い訳にしようなどとは思いません。それはまた別次元の話ですから。ただ、数十回と繰り返された拒絶の態度は、夫という立場の男にとって監獄に繋がれ鞭打たれている者と同じで、それがもとで、誘いの言葉が口から先には出なくなってしまったことも書き添えておきたいと思います。

 さて、セックスレスとなると夫婦ではないのでしょうか。答えは否です。確かに、男と女であり、精子と卵子を持ち、種を存続させる本能を持つ生き物同士ではありますが、それだけが夫婦を形作るものではないでしょう。子を授かればその子を育てるのも夫婦ですし、社会という枠組みの中で手を携えて生活していくのも夫婦です。異なる価値観が向かい合い、そこから共通の喜びや悲しみ、そして夢を見出そうとするのも夫婦に違いありません。

 セックスレスが数年つづいた頃、ぼくのなかで変化が起きました。それは、「セックスだけが夫婦ではない」という、とても当たり前の真理に気づいたことでした。夫婦を形作る要素が幾つかあるとすれば、セックスはその中のひとつに過ぎない。そう思うことで、ぼくは自分の心を納める術を身につけてきたような気がします。セックスがなくても、それ以外に夫婦で共有できるものはある。いやむしろ、そちらの方が遙かに大切なのではなかろうか。そんな自問自答が、ぼくにとっては夫婦を考える絶好の機会となったのですから、今となってはセックスレスもまんざらではなかったということになるのでしょうか。

 とはいえ、幾つかある要素の中のたったひとつでしかないかもしれないにしても、やはり肌と肌を合わせることができない一抹の寂しさは拭い去ることができません。ことさら何をどうしようと試行錯誤したわけではないのですが、あるとき、ぼくら夫婦の目の前に、セックスレスから脱却するための扉が用意されました。それは、子を持つ親であれば誰もが通るはずの扉なのですが、その話は次の機会にしたいと思います。。




Stanley

神崎ヒロイ

1962年東京下町生れ、在住。98年、ウェブで創作活動開始。2002年、大人が自然 体で愉しめるコンテンツを目指して、サイト「ヲトナごっこ」を立ち上 げる。セックスや恋愛をテーマとしたコラムを中心に、小説、エッセイ、ポエム 等の著作物から、写真や、文字と写真を組み合わせた作品等を公開中。05年夏、 学生時代の音楽仲間とおやじバンド「4-BLOOD」を結成。現在そちらにご執心中 につき、創作活動は停滞中。


TAGS: 恋愛とセックス


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