ラブリーポップ公式マガジン

おとなごっこ

男と女・セックスについてのコラム

愛し方を知らない男たち

 

ある女性から聞いた話です……。
 彼女は既婚女性。幼い子どもがふたりいて、夫は中央省庁に勤める官僚です。その夫が、夜な夜な、妻である彼女をベッドに縛りつけ、強引なセックスを繰り返すというのです。さらには、正々堂々と外に女を作り、それがあたかもステイタスであるかのように妻を諭す始末。挙句に、妊娠したといって自宅に乗り込んできた女は、まだ未成年でした……世間では時折耳にするような話ですけど、当事者からの言葉にさすがのぼくもショックを受けた覚えがあります。  彼女はその後、心療内科でカウンセリングをうけ、夫とは離婚して自立し、現在は働きながら子どもふたりを育てているようです……。

 間違った愛し方をされるのはとても不幸ですけど、愛し方を知らないのも不幸だと思います。いまの日本の男女関係を眺めていると、ぼくにはどうも、とりわけこの「愛し方」という基本的なプロセスが歪められているというか、間違った見方をされているように思えてならないんです。

 人という生き物は、環境に左右されます。国が違えば人も違うというのは、やはり異なる文化のもとで生まれ育つからなのでしょうね。「類は友を呼ぶ」という言葉が日本にはありますけど、裏返せばそれは、似たような価値観や生活環境が人と人とを結びつけるともいえるのだと思います。つまり人格を形成する上で最も重要なのは、ほかでもない、生まれたときから現在に至るまで、そしてもちろん、現在ある「環境」ということになるのでしょう。

 異性をどうイメージするかという話になりますけど、近年とみに、AVやネット上に溢れる情報から「女はこういうものだ」と思い込んでいる男が少なくないような気がします。いますよね、そういう男。AVやネットと、現実との区別がつかなくなってる男。あまり書きたくない自分自身の話ですけど、出逢い系サイトやそれに類するネットでの恋愛模様を見ているうちに、町を歩く女をみれば「あの子も誘えば乗ってくるのかな」なんて思っちゃったことがありました。いやー、アブナイアブナイ。まさに自分が怖くなりましたけど、同時に、そのような「媒体」による影響力の凄まじさを痛感もしました。

 AVが悪いとは、ぼくは言いません。それは「ネット」にまつわる犯罪を論ずるのと同じで、そのもの自体が悪いのではなく、それを扱う側に問題があると思うからです。「未成年のうちはアダルトコンテンツは駄目っ」て言いますよね。そう、それは、人間が人格を形成していく成長期にあって、人として成長していく上でふさわしくない内容だから、でしょうね。それでは、いわゆる立派な社会人、社会に出て働き、年齢的にも30歳を過ぎた大人であれば、誰でもAVを見て問題はないのでしょうか。

 ぼくの答えは「No」です。理由は簡単。しっかりと人格形成されていない大人が、いまの日本には数多く見られるから。年齢相応に刺激を受け、失敗をし、悩み苦しみ、年齢相応に成長してきたといえる大人が、果たしてこの国にはどれだけいるのでしょうか。もっとも、かく言うぼくだって、そんな大人のうちの一人……かもしれないんですけどね。

 いわゆる擬似的なもの、AVにしてもネットでの恋愛模様にしても、それが擬似であることを認識できない男が多いということなのでしょう。自分の心と体で覚えた経験で判断せず、AVやネットという媒体から得た情報で女を判断してしまう。作られた物語であるのに、それをみて「ああ、女はこうすれば喜ぶのか」と思い込んでしまう。そういう男、あなたの身のまわりにもいるでしょ。

 そう、こんな話をきいたこともあります。盛り場(死語?汗)でナンパされ、ホテルに入りベッドを共にした40歳の男が言ったそうです……「おれ知ってるよ。クリちゃんを刺激すると潮吹くんだよね」って。真顔でそんなことを口にしたのかと想像すると、思わず笑いがこみ上げてきますけど、意外と少なくないのかもしれませんよ。

 媒体を通しての情報、擬似的な世界での体験、そこには「生身の人間」が存在することは少ないように思えます。無いとは言いません。少ないということです。更には、あっても、その「生身の人間」を感じられる受け手の成熟度が未熟ということになりますか。女の愛し方を知らない男というのは、ほかでもない、生身の人間の愛し方を知らない男たちなのかもしれませんね。

 親が子を慈しみ育ててゆく。そのプロセスにおける喜びや辛苦。同じものが、女を愛する心の奥底にはあるべきなのでしょうが……残念なことです。




Stanley

神崎ヒロイ

1962年東京下町生れ、在住。98年、ウェブで創作活動開始。2002年、大人が自然 体で愉しめるコンテンツを目指して、サイト「ヲトナごっこ」を立ち上 げる。セックスや恋愛をテーマとしたコラムを中心に、小説、エッセイ、ポエム 等の著作物から、写真や、文字と写真を組み合わせた作品等を公開中。05年夏、 学生時代の音楽仲間とおやじバンド「4-BLOOD」を結成。現在そちらにご執心中 につき、創作活動は停滞中。


TAGS: 恋愛とセックス


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