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おとなごっこ

男と女・セックスについてのコラム

無知の知 / わかった顔をする女

 

古代ギリシャの哲学者にソクラテスという人がいました。ご存知ですか?名前くらいは知っている?あはは……ぼくと一緒です。そのソクラテスが、「わたしは自分が知らないということを知っている」と言ったそうです。俗に「無知の知」と呼ばれる考え方ですけれど、「何でも知っていると思うことよりも、何も知らない自分に気づくことのほうが素晴らしい」という意味だそうです。

 人の言動の根拠って何でしょうか。そう、それは経験ですよね。人は経験で物事を判断し、言葉を発したり行動を決めたりします。それでは、その「経験」とは何でしょう。その問いに波紋を投げかけるのが、この「無知の知」という考え方なのかもしれません。

 ときどき、わかった顔で物言いする人を見かけます。「物知り顔」というやつです。意識的なのか、はたまた無意識なのかはわかりませんけど、自分の知識が絶対であるかのように言い、振舞う人たちです。見極めたかのように異性を論じ、冷めた表情で動じない自分を演出する人たち。

 ぼくの中には「理想の女」というのがあるんですけど、それは内緒にして……「嫌な女」というイメージもあります。それがこの、「わかった顔をする女」です。「男なんてそんなもんでしょ」と、さも男を味わい尽くしたかのように仰る女性が、ぼくは最も嫌いです。嫌いというか、苦手、かな。ごめんなさい。ぼく自身、女という生き物と接してきて40数年が経過していますけど、いまだに女が理解できないのに、勝手にわかった顔されると腹が立つんです……。

 あ、それって、単にぼくがアホなだけ?……そうかもしれません。けれど、男と女を考えるコラムを書き続け(近年おサボリ中)、かつて夜の街で蟻地獄に自ら足を突っ込んだ男は、ここにきてついに「所詮、男と女は、わかりあえない間柄なんだ」という言葉を口にするようになりました。まぁ、その辺の解説は別のコラムに譲るとして、男にとって女は、女にとって男は、難攻不落の城のようなものだとぼくは感じています。

 一度、わかった顔をしている人たちを集めて、彼らに問いただしてみたいことがあります。「あなたは、自分のことをどれだけわかっているのでしょうか?」と。おそらくその返答は、多くの人たちが「自分のことがわからずに他人のことがわかるわけがないだろ」というものだろう、とも想像しています。なぜなら、「わかっている」という状況ほど、「わかっていない」状態はないのですから。これぞ「無知の知」の逆パターンですね。

 ぼくは、人として生きる上で最も基本的なことは、この「自分を知る」ということだろうと想像しています。これまでセックスや恋愛についてのコラムを書いてきたのは、自分の心のなかにあるものを文字で表現することで、ぼくというひとりの男を、そこに形にしてみたいと考えていたからです。近年、心理学関係の書籍が売れ行き好調なようですけれど、いわゆる「自分探し」というのは、選択肢がたくさんあって「どっちに行ってもいいよぉ」という社会では、最も難しい課題なのかもしれませんね。

 世界は広い。人間だって千差万別。そう、たとえ親子の間柄とはいえ、子は親の所有物などではなく、確固としたひとつの個性体なんです。我が子をよくよく観察していると、自分の遺伝子を持った生物であるとはいえ、やはり「読みきれないものだな」と思います。親子ですらそうなのですから、赤の他人のことなどわかる道理がないでしょう。

 そういう謙虚な気持ちを持って人と接すると、面白いようにさまざまなものが見えてきます。そして同時に、「異なる性を感じる自分の新たな姿」も見えてくるはずです。他人(ひと)は自分を映す鏡だといいますけれど、わかった顔をしていては、せっかくの鏡も曇ってしまうのではないでしょうか。結果、そこに映る自分の姿すら、見えにくくしてしまっている……。

 自分は知らないんだ。まだまだだな。ということに気づくことこそが、じつは、自分を磨き高めてゆく道へと繋がっているのかもしれませんね。自分自身と、しっかりと向かい合ってみてください。




Stanley

神崎ヒロイ

1962年東京下町生れ、在住。98年、ウェブで創作活動開始。2002年、大人が自然 体で愉しめるコンテンツを目指して、サイト「ヲトナごっこ」を立ち上 げる。セックスや恋愛をテーマとしたコラムを中心に、小説、エッセイ、ポエム 等の著作物から、写真や、文字と写真を組み合わせた作品等を公開中。05年夏、 学生時代の音楽仲間とおやじバンド「4-BLOOD」を結成。現在そちらにご執心中 につき、創作活動は停滞中。


TAGS: 恋愛とセックス


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