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おとなごっこ

男と女・セックスについてのコラム

大海の青い地図 / 未知の大切さ

 

十代で女に目覚めてから今日まで、 それはそれは、さまざまな女性たちと関わりを持ってきましたけれど、 彼女たちひとりひとりが、ぼくにとっては素敵な存在でもありました。 そして、そんな女性たちの口から耳にした「名台詞」もまた、 キラ星の如くぼくの記憶のなかで輝いているわけです。 この「大海の青い地図」という言葉も、そのなかのひとつ。

人と出逢い、人を知るということは、 大きな白地図を少しずつ色鉛筆で塗りつぶしていくようなもの、 とその女性は言いました。確かにその通りだと思います。 かつて、世界がまだよく知られていない頃、 いわゆる大航海時代と呼ばれた頃には、探検家と称される人たちが、 幻のスパイスを求めてまさに白地図を埋めながら、世界に向けて帆を張っていきました。

現代では、陸地という陸地はほぼ探検しつくされたと言われていますけど、 そう、この丸い地球の上で、唯一神秘のベールに包まれているのが、 あの青い海の底なんですね。いかにネットワークが世界中に張り巡らされて、 地球の裏側の情報が瞬時に伝わる時代になっても、海の底にはまだ、 わからない部分が沢山残されているようです。

人も同じだと、彼女は言います。世界地図を広げて、 手に取るようにわかる陸地がある一方で、未知なる青い海が描かれてはじめて、 それは世界地図なのだと。人も、すべてがわかってしまってはいけないのだと。 むしろ、わからないからこそ惹かれあい、わからないからこそ向かい合っていられる。 そういう未知なる青い部分を残しておかないと、人と人とを結ぶ糸は、どこからかほつれていってしまうのではないでしょうか。

恋をすると、人は誰しも、相手のことを知りたくなります。そして、自分のことを知って欲しいと望みます。ぼくのコラム読んでちょうだい……と思ったりします。まぁ、それはどうでもいいんですけど、よく、「セックスしてひとつになったような感覚が好き」という人がいますよね。ぼくもわかります。一応経験者ですので。体を絡めあってひとつになったような感覚を得ることも、相手を知り自分を知ってもらう、言い換えると、ふたつの物質がひとつに融合することを目指す結果なのかもしれませんね。

けれど、もしも本当に相手のことを全て知ってしまい、自分のことも全て知られてしまったら、そこから先はどうするのでしょうか。大きな地図の上に、探検しつくした陸地ばかりが描かれてしまったら、探険家はそこから先どうするのでしょうか。そもそも、お互いを全て知り尽くすなんて、言い換えると、自分と相手とが一体となることなんて可能なのでしょうか。

知りたいという気持ちはとても大切だと思います。けれど、ある「ライン」が見えたり感じたりしたときは、そこから先は「青い海のまま残しておこう」と自分をいさめる心がけも、恋愛には必要なのではないでしょうか。わからないから知りたくなる。されど、わからないから惹かれるんです。

人には「触れて欲しくない部分」というのがあるものです。老若男女問わず、それはあるものです。たとえ夫婦の間柄とはいえ、尊重してそっとしておいたほうがいい部分は、往々にしてあるものなんです。そこに触れないことが、また、反対の立場からすれば「優しさ」とも受け止められるのではないでしょうか。

どこに波打ち際があるのかを見極めるのは、とても難しいことかもしれませんけど、心の片隅に「大海の青い地図」を大切にする気持ちを持っていれば、それはおのずと見えて来るもののようにも思えます。

地図は塗りつぶさずに、白い部分を残してあげてくださいね。




Stanley

神崎ヒロイ

1962年東京下町生れ、在住。98年、ウェブで創作活動開始。2002年、大人が自然 体で愉しめるコンテンツを目指して、サイト「ヲトナごっこ」を立ち上 げる。セックスや恋愛をテーマとしたコラムを中心に、小説、エッセイ、ポエム 等の著作物から、写真や、文字と写真を組み合わせた作品等を公開中。05年夏、 学生時代の音楽仲間とおやじバンド「4-BLOOD」を結成。現在そちらにご執心中 につき、創作活動は停滞中。


TAGS: 恋愛とセックス


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