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TAO

セクシャルヒーリングTAOの癒しのセクシャルエッセイ

抱っこ

11カ月の娘の頬を思わずつねってしまった。くっきり刻まれた爪の跡を見て、我に返った。「ごめんね、ごめんね」。言葉の通じない娘に、ひたすら繰り返した。めぐみさん(31歳)は、初めての子育てに戸惑った。「よその子はいつも笑っているけど、どうして私の子は泣いてばかりなの」。

大学を卒業し、地元の神戸で就職した。仕事が面白くなってきてバリバリ働いていた矢先に妊娠し、「できちゃった結婚」で専業主婦になった。朝から晩まで娘と二人きり。マンションの窓から道行く人をながめた。行く場所がある人がうらやましかった。夫に一度だけ「あなたは会社に行けていいわね」と嘆いたことがある。

「なにがそんなに大変なの。家にいるようになったのに」と夫。「それならやってみなさいよ」と言い返したが、「ふーん」と夫は生返事。この夫の言葉を発端にめぐみさんは気持ちのすれちがいを感じ始めた。その頃から、夫からの夜の求めをうとましく感じるようになった。

救いをネットに求めた。育児に悩む母親同士のチャット。そこで区役所の育児相談に行くことを勧められた。相談所の部屋に入ると娘がぐずりはじめた。哺乳瓶を取り出し、娘の口に運んだ。娘は小さな手で哺乳瓶を持って、一人でミルクを飲んでいた。相談員は、めぐみさんが抱こうとしなかったことを指摘し、抱くことの大切さを説いた。

相談員の言うことは頭では分かっているのだが、その口調に冷ややかな「批判」を感じ、不愉快な思いで家路についた。でも相談員の言葉は気にかかっていた。抱っこしてミルクを飲ませてみた。すると手足をばたつかせて、娘は火がついたように泣き叫んだ。「どうしてなの」。思わず娘の背中を叩いてしまった。その日から娘の夜泣きが始まった。

夫はパソコンを持ち帰り、家でも仕事に追われている。夫の安眠を妨げないように、めぐみさんは夫と別室で寝るようになった。夫との会話は日々に希薄になり、めぐみさんの思いが吐露できる場は失われていった。

今は二人の幼児のママになっている会社の元同僚からTAOを紹介された。事前にホームページを見ていたが、あくまで性的な施術はイヤだということで、着衣のまま行う「Counseling&RelaxationCourse」を希望した。それでも一人では不安で、TAOの常連クライアントの彼女に付き添われて来たのだ。

「お時間よろしいですか?」。もう一時間半も話し込んでいるのを気にして、めぐみさんは私に問いかけてきた。自分の思いを十分に吐き出したのだろう。表情もしぐさも言葉も柔らかくなっていた。一連の施術が終える頃、私はめぐみさんに「HoldingTherapy」を提案した。「抱っこ療法」という、心を解きほぐす愛着技法だ。簡潔に私の意図をめぐみさんに伝え、最後に「セクシァルコンタクトは一切ありませんので」と念を押した。めぐみさんは、すぐ横に同伴者がいてくれることを確認するかのように彼女に視線を泳がせた。

寂しいとき、つらい時、哀しい時、逃げ出したい時、どうしたら良いのか分からない時、人は抱きしめて欲しいと思う。男が女を「抱きしめる」という行為には、当然セックスという意味が暗示されている。だが、今この時、この場でめぐみさんに必要なのは、「すべてを受け入れ、包み込む行為」としての「抱っこ」だ。

ある日、私は講演会で「赤ちゃんは抱っこされて愛されることが何より大事です。愛するというのは抱っこする、ということです」という話をした。講演会の後のアンケートには「私もたくさん抱っこして子どもと触れ合っていきたいです」というような感想が多く寄せられた。ところが、その中に、「私も抱っこされたい」と書かれたものがあった。「私も抱っこしたい」ではなくて、「私も抱っこされたい」・・・・・。この一通のアンケートに触発されて、私はセクシァルヒーリングTAOを営むようになる。

めぐみさんは、先週の10月9日、娘さんを抱っこしてTAOにやって来た。「娘の変化を見せたくて」。笑顔があふれていた。私の目から不覚にも涙がこぼれそうになった。三回目の「抱っこ」を終え、次回からはセクシァルヒーリングを受けたいと申し出た。夫との関係を取り戻したいから、と言った。




Stanley

Inju

[AGE]忘れました
[STYLE]174cm 64kg スリムで筋肉質
[FAVORITES]現代美術/山歩き/倖田來未/コリンヌ・リシェヌ/吉行淳之介/ウロ・クレー/ドゥビッシー
[SEXUALITY]Bisexual
[PROFESSION]セクシァル ヒーリング TAO/セックスセラピスト(自称)/気功・東洋療法士


TAGS: 恋愛とセックス


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