KAMEYAMAⅢ~vol.23 危険な欲望に悶々として

 

人間の性的願望や嗜好は、いつからどうやって作られるのだろう。気づいたら、一般的に「ノーマルとはいえない」嗜好をもっていたために苦しむ人も少なくない。

「こんな告白をするのは初めてなんですが、僕は嫌がる女性を無理やり犯したいという欲求があるんです。もちろん、それをやったら犯罪になる。だから決してやらないけど」

順平さん(47歳)はぽつりぽつりと、そう話し始めた。自分のそんな性癖に気づいたのは20代半ばだったという。

「27歳のとき結婚しました。子どももふたりいます。そうやって自分に足枷をはめて、社会に適合してきた。だけど、欲求は消せないんですよね」

妻とはうまくいっているし、子どもたちとも円満だ。なのに、彼は満足できない。妻はもともとあまりセックスに積極的ではない。それをいいことに、30代半ばから、外に目がいくようになった。

気になる女性を口説く。気乗りしていないように見える女性をとことん口説いて,ホテルに連れ込む。演技でも「いや」と言ってくれれば燃える。ところが一度寝て、相手が愛情を見せ始めると、順平さんの気持ちはすぐに萎えてしまうのだという。

「とことん、『あんたなんか好きじゃない』という態度を貫いてほしいんだけど、そうはいかないのもわかってる。だから女性ともうまくいかないんです」

嫌がる女性を征服したい。だからこそウソでもいいから嫌ってほしいという気持ち。複雑なのである。

「普通に女性を好きになって、お互いに心を通わせてセックスして。そういう過程にどうしてもなじめない。妄想としては嫌がる女性を無理やり犯して、とことん嫌われて足蹴にされてというのがいちばん燃えるんです。自分でもSなのかMなのかわかりません」

ごくごく普通の社会人であり、父親でもある彼が、そんな性癖と妄想で苦しんでいるとはとても見えない。ただ、彼自身は自分を抑制する術を知っているから、決して犯罪に走る可能性はないと言い切る。

「社会通念をわかっていながらも、こうやって自分の性癖に苦しんでいる男は、案外、少なくないと思います。それをどうやって別の欲望でごまかしていくかが大事なんでしょうね」

彼自身もネット等を使って、そういった欲望を発散させていることが多い。それでもときどき、「この人なら自分の欲望を叶えてくれるのではないか」と思う女性にアプローチしてしまうのだという。

性のありようは人それぞれ。だが、それを他人に押しつけたり、欲望を叶えるために誰かに無理強いさせたりしてはいけない。危険な欲望を抱えてしまった人の複雑な心理に触れ、私もいろいろ考えさせられてしまった。

 

 


著者:亀山早苗
明治大学文学部卒業後、フリーランスライターとして活動。夫婦間、恋人間のパートナーシップに関する著作多数。女性の立場から、男女間のこまやかなコミュニケーションのひとつとしてセックスを重要視する。 亀山早苗公式サイトはこちら・カフェ・ファタル

人はなぜ不倫をするのか 亀山早苗(著)

発売日: 2016/8/6
「人はなぜ不倫をするのか」。きっと少なくない人が、その答えを探している。本書はこの問いかけを第一線で活躍する8名の学者陣にぶつけた本だ。「ジェンダー研究」「昆虫学」「動物行動学」「宗教学」「心理学」「性科学」「行動遺伝学」「脳」。さまざまなジャンルの専門家が、それぞれの学問をベースに不倫を解説する。