KAMEYAMAⅢ~vol.21 女性不信が根強くて

 

「5年前に、8年つきあっていた彼女にふられて,それ以来、女性不信なんです」

40歳になる男性が真顔でそう言った。20代後半から結婚を意識してつきあってきた3歳年下の彼女とは、彼が30代半ばになったこともあって、一緒に住む話も出ていた。

「彼女の誕生日に指輪を贈ったんです。僕としては婚約指輪のつもりだった。そのときは喜んでくれたんだけど、翌日、メールで『なんだか情緒不安定だから、しばらくひとりにさせて』って。『なんかあればいつでも駆けつけるからね』と返信したら、『ありがとう』と返ってきた。それから五日後、連絡が来ないので心配してメールしたら届かないんですよ。あわてて電話したけど、番号が変えられていた。焦って彼女の部屋にいったらもぬけの殻。何が起こったのかわからなかった」

共通の友人はいたが、彼は誰にも訊けなかった。1ヶ月後、たまたまSNSで彼女の名前を見つけた。それまで彼女はSNSはやっていないと言っており、彼自身も興味がなかったので検索したこともなかったのだ。

「そうしたらいちばん新しい彼女のメッセージが、『1ヶ月後に結婚します!』だった。僕と別れた直後に見つけた相手なのか、あるいは二股かけられていたのか、二股だとしたら僕のほうが先なのか後なのか。いろいろ考えて眠れない日々が続きました」

オレとつきあってたくせにと書き込んでやればよかったのにと意地悪なことを言ったら、「それはできないっすよ」と彼はうなだれた。いい人なのだ。この「いい人っぷり」が彼女に物足りなさを覚えさせてしまったのだろうか。

しかし8年という歳月の間に、彼女に男の影が見えたことはなかったのか。

「週末はほとんど一緒にいましたよ。ああ、でも5年過ぎたころから、彼女は習い事を始めたとかで週末は月に2回くらい、それも泊めてくれないことが増えてきたかもしれない。ただ、僕もつきあいが落ち着いてからは趣味にも打ち込み始めたし、お互いに自由でいながら一緒にいる関係がいいよねって言ってたんですよね……」

うーん、確かに互いの自由の確保は大事だが、それは本当に信頼関係が強い場合のみ有効な手立てかもしれない。

「僕はずっと信頼していましたよ、彼女のこと」

彼は寂しそうに、そうつぶやいた。以来、女性に恋することができなくなっている彼。いったいどうすれば彼の心が解けるのか、わたしにも見当がつかない。

 


著者:亀山早苗
明治大学文学部卒業後、フリーランスライターとして活動。夫婦間、恋人間のパートナーシップに関する著作多数。女性の立場から、男女間のこまやかなコミュニケーションのひとつとしてセックスを重要視する。 亀山早苗公式サイトはこちら・カフェ・ファタル

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