KAMEYAMAⅢ~vol.20 信じていた彼女に逃げられて

 

結婚生活に大きな不満があるわけではないが、配偶者との間は友だち感覚。そんな夫婦はとても多い。  敏明さん(44歳)もそのひとり。中学生と小学生の息子たちはかわいくてたまらないし、家族で出かけるのも楽しい。それでも、男として心が疼くことがあった。3年前、そんな彼の心の隙に、3歳年下の女性がすっと入り込んできた。

「会社に来ている派遣の女性でね、彼女にも家庭があった。ただ、彼女自身の両親と同居していたので、比較的、時間がとれたんです。気があってお茶したら、次は食事になり、そしてベッドをともにして。私としては、お互いに恋に落ちて夢中だったと思っています」

危険を承知していながら、彼女を欲する気持ちを抑えきれなかった。オフィスは都心のビルにあるが、別の階のトイレで交わったこともある。

「いつでもあなたがほしくてたまらないって彼女に言われて。私もそう思っていたから、燃え上がりましたね。妻とは学生時代の友だちの延長で結婚したから、自分に訪れた初めての本当の恋だと思っていた」

なのに1年半後、彼女は突然、仕事をやめた。彼には何の相談もなかったから、彼は焦って携帯に電話をしまくった。

「でもつながらなかった。3日くらいたったとき、『もう会えないの。ごめんなさい』というメールが来ました。ついこの間まで、いつかは一緒になれたら、と話していたのに、突然、彼女は消えたんです」

家庭に何かあったのか、親が具合でも悪くなったのか。心配して何度も連絡をとろうとしたがとれない。

「数ヶ月たったころかなあ、彼女のことが社内でちょっと噂になってて。次に勤めた派遣先で不倫して、会社に奥さんが乗り込んできて大騒動になったって。同僚の友だちが、たまたまその会社に勤めていたらしい。彼女はそういう女だったのかと愕然としました。私は1年半で飽きられたということだったんでしょうね。だから別の会社に行くことにしたんじゃないか……」

彼女の真意はわからない。敏明さんの言うとおりかもしれないし、何か事情があって別の会社に派遣で行き、たまたま恋に落ちてしまったのかもしれない。

「私にはあなたしかいないとか、あなたのことしか考えられないとか、そういう言葉に調子に乗ってしまった自分が、なんだか哀れでたまらない」

今も落ち込んだ様子の彼に、私はかける言葉が見つからなかった。

 

 

 


著者:亀山早苗
明治大学文学部卒業後、フリーランスライターとして活動。夫婦間、恋人間のパートナーシップに関する著作多数。女性の立場から、男女間のこまやかなコミュニケーションのひとつとしてセックスを重要視する。 亀山早苗公式サイトはこちら・カフェ・ファタル

人はなぜ不倫をするのか 亀山早苗(著)

発売日: 2016/8/6
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