KAMEYAMAⅢ~vol.18 なんとなくセックスレスに

 

既婚者をつかまえては、「家でしてる?」とセクハラまがいの発言を繰り返している私だが、「してる」と答える人はめったにいない。もちろん、そんなことを発表する気はないのかもしれないが、中には本当に遠い目になって、「いつしたんだろう」と考え込む男性さえいる。

仲が悪いわけではない。だが、夫婦間にセックスだけが抜け落ちている。それで家庭内がうまくいってるのだから、今さら誘って妙な雰囲気になるのも避けたい。そんな意図があるようだ。

「でも、これでいいのかなと思うことはありますよ」

39歳、結婚して10年の雅之さんはそう言った。7歳と4歳の子がいるため、2歳年下の妻は家事に子育てにとてんてこまい。もちろん雅之さんもできることはやっているが、仕事時間が不規則で泊まり勤務もあるため、できることは限られてしまう。

「すれ違いからセックスレスになったんだと思うけど、僕には欲求がある。ただ、朝から疲れている妻を見ると、誘ったら悪いよなあと……。断られたら傷つくし」

ときどき、お手軽な風俗へ行く。だが、体はすっきりしても、空しさがつきまとう。

「2年くらい前かなあ、子どもたちを預けて、たまにはふたりでラブホテルにでも行こうかと、妻に言ってみたことがあるんです。でも、『それはどうかなあ』とはぐらかされました」 それきり誘えずにいる。こういう夫婦は意外と多い。

お互いに肝心なところに踏み込めない。そうしているうちに、相手の感情を見ないようにするのが日常となっていく。

「そういえば会話も子どものことや、長い休みにどこかへ行くかとか、そういう内容が多いですね。お互いの心のうちを話すなんてこと、あまりないかもしれない」

仲が悪いわけじゃない、というのは表立ってケンカをしないというだけのこと。いつしか何もかもがすれ違ってしまうということもなきにしもあらずだと思う。

今なら修復はできるはず。しつこくラブホに誘うとか、たまにはふたりだけでデートしてみるとか、「男女」を取り戻すような行動を起こしてみたほうがいい。

まだ自分が50代になることなど想像ができないかもしれないが、時間はあっという間に過ぎる。半世紀生きたところで、大事な伴侶との関係が虚しいものになっていたら、もう修復はきかないかもしれないのだ。

さんざん脅したけれど、雅之さんは「うーん」と唸って天を仰ぐばかり。結婚記念日か妻の誕生日を狙って、何か行動を起こしたほうがいいと、私は念を押した。

 

 


著者:亀山早苗
明治大学文学部卒業後、フリーランスライターとして活動。夫婦間、恋人間のパートナーシップに関する著作多数。女性の立場から、男女間のこまやかなコミュニケーションのひとつとしてセックスを重要視する。 亀山早苗公式サイトはこちら・カフェ・ファタル

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