KAMEYAMAⅢ~vol.07 女性の演技
好きな彼女が自分によってオーガズムを感じてくれるのはうれしい。そう思わない男はいないだろう。だが、それが演技だったとしたら……?
「つきあって2年たつ彼女がいるんです。セックスも合うし、一緒にいて楽しいから、プロポーズしたら、彼女、『しばらく考えさせてほしい』と言うんですよね。何を迷うことがあるんだろうと,何度も何度も訊ねたら、『セックスが不安』と言う。さらによくよく聞いてみたら、僕とでは本当のオーガズムを得られないというんです。これはショックでしたね」
達也さん(33歳)は、暗い表情でそう言った。彼女は30歳。心も体も合っていると思っていただけに落ち込んだ。
「感じてないわけではない、と彼女は言うんです。もうこうなったら、いっそすべて聞かせてほしいと頼みました。すると彼女、僕の前につきあっていた人と、ものすごく感じていたらしい。どうしてもその彼と比べてしまうところがある、と彼女は涙ぐみながら言うんです。なんだかせつなかった……。彼女は、『あなたは一生懸命、私を感じさせようとしてくれてる。だから言い出せなかったし、言う必要もないと思ってた。だけど結婚となると考えてしまうの』って」
彼女はセックスに積極的なタイプ。だからこそ達也さんも、いつも彼女とのセックスは楽しかった。彼女も没頭してくれていると信じ切っていた。それが演技だったとは。
「もっと早く言ってほしかったというのが本音です。思わずそうつぶやいたら、『悪くて言えなかった』と。僕が、もっと感じさせるようにがんばると言っても、彼女は『セックスはたぶんセンスなのよ』と言うんです。あまりに申し訳なさそうに言うから、反論できなかった。前の男がよっぽどよかったんでしょうね」
彼女と別れたくはない。だが、その話をしてから3ヶ月、ふたりの間はなんとなくぎくしゃくしているし、セックスの関係もない。「もうダメなんでしょうね、たぶん」
彼女に実は他に好きな人ができたとか、そういうことではないのかと訊ねてみたが、どうもそうではないらしい。
「私だって別れたくはないって彼女が泣くんですよ。でもこの先のことを考えたら、セックスが合わない男と結婚する気にはなれないということなんでしょうね。ま、もしかしたらセックスが合うけど結婚はできない男がいるのかもしれないけど」
最後は達也さん、自嘲的な口調になっていた。
著者:亀山早苗
明治大学文学部卒業後、フリーランスライターとして活動。夫婦間、恋人間のパートナーシップに関する著作多数。女性の立場から、男女間のこまやかなコミュニケーションのひとつとしてセックスを重要視する。 亀山早苗公式サイトはこちら・カフェ・ファタル
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