KAMEYAMAⅢ~vol.04 「男なんだから」のつらさ

 

女性が「したいときとしたくないとき」があるように、男性にもそれはあると男たちは口を揃える。

「だけど、男は女性が欲していたら、それに応えなくちゃいけない。なんだかそういうプレッシャーがありますよね。男にだって『今日はそんな気になれない』という日があってもいいと思うんだけどな」

秀幸さん(36歳)は、顔を歪めながらため息をつく。

かつては「据え膳食わぬは男の恥」なる言葉まであった。女性がその気になっているのに断る男は風上にも置けないというわけだ。その不文律はかすかではあるが、今も残っている。

「かすかじゃないと思いますよ。つきあって1年になる彼女がいるんですが、僕にセックス拒否権はない。僕が何か言うと、『それって女性を差別してるんじゃない?』と口を尖らせるのに、セックスに乗り気じゃないと『男のくせに』と言われる。それ、差別じゃないのと訊ねたら、『細かいこと言わないの,男なんだから』って。完全に逆差別ですよ」

のろけかなと思って聞いていたのだが、どうやらそうではないらしい。秀幸さんは小どの頃から、母親に「男なんだから」と言われ続けてきたのだという。

「男なんだから泣くな、男なんだからがんばれってずっと言われてきて、つらくてたまらなかった。どうして男は感情を出してはいけないのか、無理してがんばらなくてはいけないのか。自分に合わない大学に入って、結局、体をこわして辞めたときも『男のくせに』と母親になじられました。別の大学に入り直したときは褒めてもくれなかったけど」

母親が期待する「立派な男像」にはなれない。そう感じて精神的に距離をとった。なのに、つきあう彼女は母親のように彼を支配しようとする。

「女の人からの期待というのが怖いんですよね。あるとき、疲れていて中折れしちゃったとき、彼女が無言でため息をついた。だめねって言われるよりつらかったですよ」

脳の構造からいって男のほうがストレスに弱いのは明らかだ。だからといって男はみんな弱いのだから、女性は気を遣ってあげましょうというつもりはない。彼自身も、プレッシャーに負けてばかりいないで、彼女ときちんと話し合ってみればいいのだ。自分がどれだけ「男なんだから」に縛られてつらい思いをしてきたか。彼女があなたを大事に思っているなら、きっと話し合えるはず、と私は彼を励ました。しばらくたって彼から連絡が来た。

「情けない男とはつきあえない」

と結局、ふられてしまったそう。でもきっと、いつかわかってくれる人が出てくるよと私は慰めるしかなかった。男女の関係はむずかしい。

 

 

 


著者:亀山早苗
明治大学文学部卒業後、フリーランスライターとして活動。夫婦間、恋人間のパートナーシップに関する著作多数。女性の立場から、男女間のこまやかなコミュニケーションのひとつとしてセックスを重要視する。 亀山早苗公式サイトはこちら・カフェ・ファタル

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