KAMEYAMAⅡ~vol.20 家庭に居場所のない男たち

 

40代の男たち。仕事で力を発揮し、男盛りでもある。
よく働きよく遊び、という年頃でもあるはず。この年代の男たちが生き生きしてくれないと、社会に活気はない。ところが長く続く不況のせいか、40代の男たちに元気がない。

「中間管理職ですからねえ、上からは責められ,下の奴らはコミュニケーションすらうまくとれない。がんばってはいるけど、つらいところです」

そう話してくれた46歳のYさん。それでもがんばっている実感があるせいか、仕事のことを話すときは生き生きしている。一方、家庭に話が及ぶと、彼は突然、口が重くなった。

「高校生の娘と中学生の息子がいるんだけど、娘は父親を嫌がる年齢なんでしょうね。妻と結託して私を軽んじているような気がします」

などと被害妄想的なことを言う。発端は娘の中学受験。Yさんは地元の公立校でいいと思っていたのだが、妻は有名私立を受けさせたいと言い張った。あげく、娘が受験に失敗したときは、「お父さんが真剣に取り組まなかったから」と責めた。

「あのへんから妻との間には大きな溝があると感じ始めました。次は息子の受験だったけど、やはり私はどうしてそこまで私立にこだわるのかわからない。仕事で遅く帰っても、私の食事は用意してなかったんですよ」

結局、息子も受験に失敗。彼は春休み、息子とふたりで旅に出た。釣りをしたり広い川原でボール遊びをしたり。息子は今は地元の公立校でサッカー部に入り、活躍している。「勉強ができることより、むしろ生命力を養ってほしかった。娘にも同じように思っていたけど、母と娘の絆は強くて入り込めなかったんですよね」

息子はあくまで自分の道を行く。母と娘は強力に密着。結果、彼は家庭に居場所がないと感じつつある。

「休みの日なんて、娘と妻は一緒に出かけ、息子は部活。オレはなんのために働いているんだろうと思いますよ」

妻と寝室は一緒だが、彼が寝入るまで妻は寝室に入ってこない。当然、セックスもない。もう五年ほどレスの状態だ。

口を利かないわけではない。しかし、会話のほとんどは報告。

「娘にこんなことがあったからこうした、近所でこうだった、親戚の誰それからこう言ってきたからこうした。彼女が何を考えているのかわからない。『今度、映画にでも行くか』と言ったら『ふたりで? いいわ、やめとく』という返事でした」

苦笑いした彼の顔は、どこか寂しそうだ。家族はいずればらばらになっていくものかもしれない。最後に残るのは夫婦ふたりきり。だが、このままで彼ら夫婦の間は大丈夫なのだろうか。よけいな心配もしたくなる。

「私自身も不安ですよ。夫婦ふたりになったとき、枯れた雰囲気とは別の殺伐とした空気が流れそうで」

帰り際、彼はぽつりと言った。

「今、社内に気になる女性がいる。向こうも家庭があるから進展はしないと思うけど、たまに彼女と飲みに行くのが唯一、心なごむときですね」

 

 


著者:亀山早苗
明治大学文学部卒業後、フリーランスライターとして活動。夫婦間、恋人間のパートナーシップに関する著作多数。女性の立場から、男女間のこまやかなコミュニケーションのひとつとしてセックスを重要視する。 亀山早苗公式サイトはこちら・カフェ・ファタル

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