KAMEYAMAⅡ~vol.17 夫への積年の恨み パートⅠ

 

もう少し熟年になった夫婦から、私たちは何かを学べないだろうか。

結婚30年、55歳になるT子さんは、セックスレス歴が結婚生活のおよそ半分の14年。夫の浮気が原因だった。

「夫を許すタイミングを失ってしまった」と彼女は言う。浮気が発覚したとき、夫は「本の出来心だった」と手をついて謝った。だが、彼女は「なあなあで、まあいいか、とは思えなかった」そうだ。当然だろう。

夫と口すらきかない期間が3ヶ月ほど続いた。たまたま、夫の父親が倒れ、ふたりで見舞いに行くことが度重なったので会話は復活した。

「私は本当に夫が憎かったんです,当時は。でも、今思えば同じ部屋で寝ていたのだから、心底、憎んでいたわけじゃないんでしょうね。ある夜、夫が手を伸ばしてきた。そこで受け入れていれば関係は復活したんでしょうけど、私は素直になれなかった」

本当は「私よりその女性のほうが好きなの?」と聞きたかった。裏切られた、と号泣したかった。彼女はそう言う。だが、妻としてのプライドと母親としての責任感からか、彼女は夫を男として拒絶した。

「それっきり、夫は誘ってきません。最初はそれでもいいと思っていたけど、50歳を目前にしたころから寂しくてしかたがない。夫は週末、趣味の釣りにのめりこんでいます。仲間もいて楽しそう。私はそんな夫の動向を見ながら、心のどこかで私を大事にしなかったくせに、と恨みを抱えてる」

本当は今からでも,夫に抱かれたいのでしょうと訊ねると、彼女は小さく頷いた。

「でも今さら、私からは誘えない。女として見捨てられたような気分で過ごしてきました」

頭痛や目まいに悩まされた更年期からも、最近、そろそろ脱しつつあるというT子さん。

「子どももふたりいることだし、今さらセックスしたいというのはおかしいかもしれません。でも、やはりまだ女として生きたいという気持ちも捨てきれない。その一方で、この年で女として生きたいなんて思っても、誰も相手にはしてくれないだろうとわかっているんです。すべて夫が私を放置してきたせいだという気もして」

力なく笑う彼女に、私はかける言葉もなかった。
浮気されたことで恨み、さらにその後、自分を放置してきたということで、恨みが塗り重ねられている。

彼女の心情として,当時、夫を簡単に許せなかったのはよくわかる。
だが、どこか別のタイミングで関係修復に動いてもよかったのかもしれない。それもまた、今さらではあるのだけれど。

 

 


著者:亀山早苗
明治大学文学部卒業後、フリーランスライターとして活動。夫婦間、恋人間のパートナーシップに関する著作多数。女性の立場から、男女間のこまやかなコミュニケーションのひとつとしてセックスを重要視する。 亀山早苗公式サイトはこちら・カフェ・ファタル

復讐手帖─愛が狂気に変わるとき 亀山早苗(著)

発売日: 2017/9/22
亀山 早苗 (著)
男の裏切り、心変わり…別れた男、不倫相手、夫…行き場を失った女の想いが向かう果て。ボンド、下剤、剃毛、暴露、破壊、尾行…実録!復讐劇の数々。