KAMEYAMAⅡ~vol.16 自分らしく生きるために

 

セックスにはいろいろな目的があると思う。
子どもを授かるためのセックス、愛情を確認するためのセックス。
習慣として、関係の刺激としてなどもあるかもしれない。もちろん、それらが複数重なり合っている場合もあるだろう。

だが、特にセックスレスで悩む既婚女性たちにとっては、もうひとつ重大な目的がある。 「女として認められたい」ことだ。
「40代にもなってまだ深い快感を知らない。オーガズムを得たことがない」と悩んでいる女性でも、よくよく話を聞いてみると、決して「快感を得る」のが目的ではなく、「自分が自分として認められたい」「女として愛されたい」という気持ちが強い。

一方で、「セックスは技術だ。快感さえ得られればいい。愛情と性欲をごっちゃにするのはめんどう」と言い放つ女性たちもいる。長い年月、男女の関係を取材してきた私としては、どちらの言い分もわかるだけにうまく整理がつかない。
女性たちがセックスについて声を上げられる時代になっただけに、今はいろいろな意味で過渡期というか混沌とした時期なのだろうと思う。

それでも、レスの渦中にいる女性たちにとって、愛情と性欲を切り離したほうがいいとは言い切れない。
たとえ男のセックスが稚拙であっても、抱きしめられて肌を合わせるだけで満たされる場合もあるのだから。

「なぜレスが苦しいのか」は、やはり女として放置されている惨めさが強く心を圧迫するからではないかとも思う。

相手がいるのに心も体も交流できない寂しさは想像するにあまりある。日常生活に不自由がなくても、ふと顧みると、自分の人生はなんだったのだろうと考えてしまうだろう。
夫婦の間でセックスがなくなるのはつらいことだが、ひょっとしたら、そこでただ悩んでいても埒は明かないのかもしれない。もちろん、婚外恋愛を勧める気はさらさらないが、一歩踏み出すことで、何かが変わる可能性もある。

「私は思いあまって、性感マッサージを頼みました。セックスはなしだけど、体中をマッサージしてもらってバイブでイクことができた。『レスの女性はあなただけじゃないんですよ』と言ってもらったことで、少しだけ気が楽にもなりました」

長年、交流のあるごく普通の主婦C子さん(43歳)は、少し晴れやかな顔でそう話してくれた。これもまた、女性が自分らしく生きるためのひとつの方法ではあると思う。

 

 


著者:亀山早苗
明治大学文学部卒業後、フリーランスライターとして活動。夫婦間、恋人間のパートナーシップに関する著作多数。女性の立場から、男女間のこまやかなコミュニケーションのひとつとしてセックスを重要視する。 亀山早苗公式サイトはこちら・カフェ・ファタル

 

人はなぜ不倫をするのか 亀山早苗(著)

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