KAMEYAMAⅡ~vol.02 満たされない男の行き場は・・・

 

誰でもそうだが、自分が吐いた言葉がどれだけ相手を傷つけたかについては忘れがちだ。
一方で、自分が傷つけられたことはしっかり覚えている。

ある男性は、子育て真っ最中の妻を抱こうとして、「私はそういうことはもともと嫌いなの。あなたはそれしか考えてない」と言われて、いたく傷ついた。それ以来、彼は一度も妻を誘っていない。ところが8年後、同い年の妻が40歳を越えたころ、

「あなたは私を妻として認めていない」

と言い始めた。よくよく話を聞くと、彼がセックスをしようとしないからだという。

「自分からひどい言葉で拒絶しておきながら、今さら何だよ、と思った。そのときにはすでにこっちもやる気をなくしていたからね」

だが、この彼、がんばってはみたという。それでもどうしても妻とはできなかった。妻の泣き声を聞きながら、いつの間にか夫婦の間に溝ができていることを実感していた。それでも子どももいることだし、結婚生活は続いていった。続けていくしかなかった。

45歳を迎えるころ、彼に好きな人ができてしまう。相手はバツイチの40歳。一緒にいると心がなごんだ。何より、父や夫という役割から解放される。自分がひとりの男でいられることに彼はほっとした。それでも離婚するつもりはなかったから、彼女との関係を進めるべきかどうか躊躇した。だが、彼女から誘われて、とうとう関係をもった。

「相性がよかったんだと思う。久々に、ものすごく興奮しちゃって。彼女とは1年くらい続いているけど、会うたびにセックスしてる。彼女もどんどん感じるようになっていくと言ってくれて……」

妻への罪悪感はある。だが、もはや家庭と彼女のことは、彼の中では別のことになりつつあるようだ。

「この関係を恋愛と名づけていいかどうかわからないけど、責任上、家庭は続ける。何より子どものために。妻とだって会話がないわけじゃない。セックスさえなければ、友だちのようにうまくやっていける。だけど、僕も男。どこかで男である自分を満たしたい。彼女といると家とは違う居心地の良さがある。勝手だとわかってはいますけど」

こういう場合、風俗へ行って性欲を満たす男もいるだろう。だが彼は、風俗を好まない。もし彼女に会わなければ、恋愛さえしなかったかもしれないと言う。だからといって、彼女と結婚したらうまくいくというものでもないだろう。

家庭、そして外での恋とセックス。
迷い悩みながらも、彼は両方とも手放したくないと言い切った。

 

 


著者:亀山早苗
明治大学文学部卒業後、フリーランスライターとして活動。夫婦間、恋人間のパートナーシップに関する著作多数。女性の立場から、男女間のこまやかなコミュニケーションのひとつとしてセックスを重要視する。 亀山早苗公式サイトはこちら・カフェ・ファタル

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